東京ふうが61号(令和2年春季号)

春季詠

本誌「作品七句と自句自解」より


蟇目良雨

九曲し海へ出でけり春の川
美しき人は猫背や花すみれ
寅さんのやうに突然鴨帰る


鈴木大林子

入港の巨船動かず春の風邪
勅願の門を出て行く落花かな
名刹の駅を出て行く初つばめ


乾 佐知子

手折りたる春筍青き香を放つ
歩み初む児の丈ほどにチューリップ
安房の海沖まで碧し涅槃西風


深川 知子

霾るや海遠ざけて鉄の町
潮干狩金印出でし島を見て
蘆芽ぐむ眩しき志賀のさざ波に


松谷 富彦

家籠もるコロナ自粛の日永かな
水かげろふ踊る書院の春障子
かたくりの花号砲を待つ構へ


花里 洋子

鳥雲に拾ひし羽の色惜しむ
しやぼん玉の大玉小玉相離れ
潮風のさわぐ宮奥落し角


小田絵津子

タンカーの横切つて行く潮干狩
鳥帰る暮れ残りたる安房の海
春の雪コロナウイルス鎮めむと


石川 英子

佐保姫の頬きらきらと狭庭かな
しじみ舟腰まで濡らし掻きに掻く
波寄せて声かけ合へるしじみ舟


堀越 純

山住みの家族総出の潮干狩
上州の風の荒ぐせ花大根
花菜風遠い記憶のよみがへる


古郡 瑛子

みな敵のごとく行き交ふ春のマスク
筑波嶺にあふるるひかり種を蒔く
清明の風きらきらと能舞台


河村 綾子

三番瀬に三度旋回鳥帰る
突き破る古き鳥の巣蘆の角
陽に光る水面桜を鯉抜ける


髙草 久枝

春の風邪こもれば猫に癒されて
対岸の木木の美しきや春の雪
惚けたる祖母の手つきに茶摘かな


荒木 静雄

仏壇の妻へ届ける花便り
梅祭マスクの群れに絵馬の山
フリージア匂ふ窓辺のティータイム


島村 若子

門前を貸して馴染みの植木市
姉さんとおつかなびつくり柳絮浴び
方角を疑はずして鳥帰る


大多喜まさみ

満開に人無き公園春の雪
清和なり歯止めかかりし温暖化
穴あきし古足袋はきて潮干狩


本郷 民男

鯒突きし感触今も潮干狩
種蒔を終へて神樹に一礼す
迷走し集合離散蛙の子


野村 雅子

錦絵のままに麗か太鼓橋
芦の角瀬音奏づるプレリュード
繊細に武骨なる手の製茶かな


宮沢 久子

通る人みな花守や街あかり
志望校は少し控えめ迎春花
ひと粒は千の米粒籾を蒔く


(つづきは本誌をご覧ください。)