東京ふうが69号(令和4年春季号)

春季詠

本誌「作品七句と自句自解」より


蟇目良雨

   棚山波朗「春耕」前主宰死す。
   料峭忌と名付ける。二句
一本の柱に影や料峭忌
下萌の能登の羽咋に帰りなむ


乾 佐知子

いづくへと光り集めて花筏
地球儀にまとゐし春の闇深し
税務署の壁を気ままに蔦若葉


深川 知子

剪定の助手は少女やピアス揺れ
ふるさとの波に音なき春の夢
墨東に遊ぶ夕風荷風の忌


松谷 富彦

寡黙なる師は旅立ちぬ梅二月
木片にハングルの文字雁供養
雲水の白き脚絆や草萌ゆる


古郡 瑛子

白壁に影やはらかし迎春花
冴返る接種のあとの疼く真夜
耳鳴りに春の足音聞きとれず


小田絵津子

雀らの呼び出してゐる蕗の薹
追ひ焚の汐木のいぶり雁供養
宿坊の僧みな若し木の芽和へ


本郷 民男

卵よりさらに密なり蝌蚪の群
水底の小さき地上絵蜷の道
鎧脱ぎ自由奔放芽吹くかな


野村 雅子

その昔ここは大奥青き踏む
葉隠れに鎌首もたぐ蝮草
シャンパンの泡のささやき春の夢


河村 綾子

廃業の銭湯ぐるりと蔦若葉
スケボウの風切る坂やミモザ咲く
本郷に喜之床灯る啄木忌


高草 久枝

土曜版ひろげ落花を迎へをり
拝領の御衣の詩歌や梅日和
雁供養三味はじよんがらよされ節


荒木 静雄

路地裏の目立つ質蔵蔦若葉
凍返る砲声響くスラブの地
春の闇ロシアの暴挙今も尚


島村 若子

中銀カプセルタワー解体花散らす
軽自動車で足りる引越し蔦若葉
温もりを引きよせて見る春の夢


大多喜まさみ

多喜二忌やオホーツクの海波高し
言の葉に言霊込めつ耕しつ
童んべの空をつかみつ落花かな


高橋 栄

立教に長嶋在りし蔦若葉
三回りも若返る妻春の夢
草笛を吹き損ねたる男かな


(つづきは本誌をご覧ください。)