東京ふうが67号(令和3年秋季号)

素十俳句鑑賞 100句 (6)

蟇目良雨

(36)
秋風やくわらんと鳴りし幡の鈴
大正12年12月 虚

 村社のはた幡に結ばれている鈴が秋風により「くわらん」と鳴ったことを写生。秋櫻子と吟行して、はじめ「がらん」と鳴ったと書いたものを秋櫻子が添削をして「くわらん」になり「ホトトギス」に投句したら入選したという記念作品。初心者らしい素直な句作り。

(37)
元日や新苫かけてもやひ船
大正13年3月 虚

 関東大震災の翌年の作品。東京には船上生活者が昔からいたが、震災で家を失った人がもやい船に住処を求めてその数を増やしていたので素十が気になったのかも知れぬ。
貧しい船上生活であるが新年だけは新しい苫(芦などで作った筵状のもの)を掛けていて気持ちがいいとエールを送っている。

(38)
帆上げたる水尾ごう〳〵と東風の船
大正13年5月 虚

 この句、「ごうごうと」は何処にかかるのだろう。東風に帆をあげた帆掛船は先ず帆をばたばたさせるだろう。舟が走り出して速力が出てくると水尾は勢いよく波だって来る。水尾がごうごうと立つことはおかしい。結局、東風を得て勢いよく進む帆掛船全体の様子を「ごうごうと進む」と認識したからこうした表現になったと考える。
素十の故郷は取手。利根川や小貝川や吟行に出かけた潮来にはまだまだ帆掛舟が活躍していた。素十にとってはよく見かける光景の一つであった。


(つづきは本誌をご覧ください。)