季刊俳誌東京ふうが通巻22号

東京ふうが 22号(平成22年 夏季号)

銃後から戦後へ 14

東京大空襲体験記「銃後から戦後へ」その14

本官への道

鈴木大林子

三途の川をUターンしてからしばらく経ったある日、いつものように10時の休憩のために線路班に戻ると工手長から「今電話があって、1時から本区で採用試験があるから作業服のまゝですぐに行くように。」と言われ、弁当箱だけを持って浜松町駅近くの線路沿いにある新橋保線区の本区に向いました。それにしても試験の当日のそれも3時間前になっていきなり本人に通知があるとは随分あわたゞしいと思いましたが、後で聞いた話によると、本区から分区へ連絡が入ったのは3日前で、その時分区で留守番をしていた者が電話を受けながら分区長に伝えるのを忘れていて、当日用事があって本区に行ったテコさん(本来は本区の技術職員であったのが定員法によって線路工手に降格され、分区長の職務補助をしている人)が本区の人事係から聞いて慌てゝ電話して来たとのこと。人の一生を左右し兼ねない大事な情報を簡單に忘れてしまうという人もどうかと思うが、その時テコさんが本区に行かなかったら(これも後で聞いたことですが、その用事というのも急ぐものではなく、その時にフト思いついたものだそうです。)勿論試験はパー、その後採用試験は2年間なかったことを考えますと、国鉄との縁は100%そこで切れていた筈で、そうすると俳句との縁、少くとも春耕との接点は全くゼロ、生涯皆さんとお会いすることは無かったわけですから、全く以て人の運というものは奇妙不可思議なものであります。

(つづきは本誌をご覧ください。)