東京ふうが37号(平成26年 春季号)

銃後から戦後へ 29

= 私はホールインワンをやった =

鈴木大林子

 前回お話ししました薄暗い照明下での乱読、栄養不良等の原因で低下した私の視力は限界に達していましたが、強い近眼鏡を掛けていたので日常生活には格別支障もなく人並みに暮らしていました。ところが、40才から半ば強制的にやらされたゴルフだけは例外でした。何しろあの小さなゴルフボールが競技者である私の視界に留まっていられるのはせいぜい50メートルまで。それでも真っ直ぐに飛べば歩いて行くうちにはボールにお会いできますが、少しでも左右に外れれば完全にお手上げ。眼が悪くても勘のよい人ならば自分の打球の行く方は勘で分るそうですが、私の場合はその勘も悪いのであとはキャディさんかパートナーに頼るほかありません。こうなると気の毒なのはキャディさんで、私に付いた時には普段の倍以上の労働を余儀なくされるのですから。それでも殆んどのキャディさんは、少くとも表面上は嫌な顔一つせず「お客さんのボールを探すのもキャディの仕事ですから」とか言って親の仇でも探すように球を探してくれますが、同伴のプレーヤーが先輩上司の場合はそうはいきません。同伴者が後輩部下ならば「もっと練習してからコースに出て来い」と一喝されますが、私の場合は「もっと眼をよくしてからコースに出て来い」とも言えず。せいぜい「もっと度の合ったレンズに替えたらどうだ」と言うぐらい。実際私もそのとおりだと悟って近所の眼鏡屋で0.01というビールびんの底みたいな視力障害者用のレンズを購入、試しに行きつけの練習場で打とうとしたところ眼とボールの距離感が全く合わず、殆んどがカラ振りか、当っても真っすぐ前ではなく真っすぐ横か、ひどい時には後へ飛ぶ始末。隣りの客からクレームの付く前に止め、帰ろうとすると顔見知りのレッスンプロから「鈴木さん、今日は一体どうしたのですか。」と聞かれたのでそれまでの一部始終を話したところ、しばらく考えていた末、「それでは眼鏡はいつものに戻して、オール金棒でやってみるより仕方ないですね。」との御宣託。註釈を加えると、金棒とは「鬼に金棒」の金棒ではなくアイアンクラブのこと。オール金棒とは戰後間もなくの頃、全国都市対抗野球大会で連覇を果たした強豪チームの「オール鐘紡」をもじったもの。つまり飛距離は出るが方向性に難のあるウッドクラブを捨て、全てのショットをアイアンクラブだけでプレーしろということであります。

(つづきは本誌をご覧ください。)