東京ふうが62号(令和2年夏季号)

韓国俳句話あれこれ 7

本郷民男

▲ 齋月庵松霧とその撰句の一部

前回に続いて、釜山の龍頭山神社に奉納されたと思われる、俳額のお話です。2人目の撰者の齋月庵松霧(吉田虎吉1842~1909)は、岡山の柔術家で俳人でした。町人でしたが、22歳で岡山藩の柔術指南となり、150俵の禄を得ました。篆刻、書、礼法など多芸で、酒飲みの豪傑で健脚でした。
松霧の息子が創業した吉田珍果物本店が今も岡山市にあり、松霧の逸話を伝えます。大阪まで友人と行った帰りに、友人は船で帰りましたが松霧は歩いて帰り、船より先に着きました。酒がなくなると、大金を持ったふりをして、夜道を歩きました。強盗が襲い掛かると柔術で投げ飛ばし、刀を奪いました。売り飛ばして酒代にした刀が70振り。

朝晴れや海見て居れば月光る  釜山 俳佛
照り返す夕日まばゆし百日紅  同  松琴
雨脚の煙りて暮るる柳かな   岡山 泉園
五月雨や雲の上なる山の寺   釜山 松峯
美しき小雨のふるや杜若    釜山 山霞
艸の戸や蚊遣に疎き三日の月  神戸 梅郷
鶯や小笹に風もなき日和    釜山 浜遊
田の水の暮れても早き匂ひ哉  岡山 柳居
門口で馬飼ふ家の寒さかな   釜山 遠舟
不足なき家の構へや白牡丹   同  四君
香に覚める机の夢や欄の花   同  俳佛
白菊や汚れぬ御代の花の艶   京都 鳥楽
蔵建つる日を見て置くや初暦  釜山 山霞
海一里手に取るやうな砧かな  岡山 恭邦
掃き初や朝日の匂ふ青畳    同  柳居
山吹や折戸開くれば水の音   釜山 凉月
柳より人静なり西の京     岡山 松寿

松霧は俳句の弟子が150人くらいたそうで、岡山の人の句を多く採っています。松霧自身の「あかねさす松や年立つ日の匂ひ」は、明治40年の歌会始のお題「新年松」に合わせています。

(つづきは本誌をご覧ください。)