東京ふうが67号(令和3年秋季号)

春季詠

本誌「作品七句と自句自解」より


蟇目良雨

水澄んでそのあとのこと明らかに
秋風やヴヰオロンに泣く弱法師
交はると言ふ語の深し秋の暮


乾 佐知子

ちちろ鳴くまだ健在な左耳
湖北なる細身の秘佛夕紅葉
盆の月智恵子の空を明かるうす


深川 知子

丸橋は江戸の石組水の秋
五万石城址へ桜紅葉初む
候鳥や清盛塚は海に向き


松谷 富彦

水澄める元安川に地獄絵図
杣小屋を覗く狸やきのこ汁
鬼平の江戸に浸りし夜長かな


古郡 瑛子

草相撲ちちんぷいぷい傷なほす
ため息の捨てどころなき熱帯夜
菊人形花錆びてなほ見得を切る


小田絵津子

積み上げし廃車の下に草の花
舟と舟寄りそふ入江十三夜
色鳥や廂はみだす酒林


本郷 民男

上の田はもう生乾き落し水
素十忌や草木を見るに虫眼鏡
選外は磴に置かるる菊花展


高草 久枝

露けしや遺愛のピアノ黒光る
十三夜客のまばらな縄のれん
それぞれの風をからめて秋桜


河村 綾子

伸びらかなり台湾粥の藷ごろと
無言館出でて露けし石畳
爺ぢ婆ばの期待のまはし草相撲


荒木 静雄

コロナ禍の先行き覗く後の月
敬老日コロナ次第の余生かな
手足欠き跳び込むプール水澄めり


島村 若子

十三夜三種の神器供へ待つ
起こしてはならぬ将門石叩
菊花展矢印どほり観て帰る


大多喜まさみ

桃吹きて大地に白く標置く
湧き出づる三井寺の井の水澄みし
白秋や亡き人来る夢の中


野村 雅子

コスモスの角が目印別荘地
秋風や改札口の伝言板
名札みて花少し見て菊花展


高橋 栄

玉電の曳く風やさし草の花
白鳳の仏の衣紋走り蕎麦
母の紅貰ふ娘や色鳥来


(つづきは本誌をご覧ください。)