東京ふうが68号(令和3年冬季・新春号)

冬季・新年詠

本誌「作品七句と自句自解」より


蟇目良雨

それからの心の門を冬構
鱈場蟹釧路の暗き灯に食らふ
流氷の哭く夜をひとり旅寝かな


乾 佐知子

冬芽吹く外人墓地の鉄の門
寒椿流人の墓を囲みをり
立春の光となりて鷺翔けり


深川 知子

禰宜径や梛の冬芽に日の一縷
凍てきれぬ滝一条の水の音
女正月小瓶に選ぶアロマの香


松谷 富彦

ざくざくと軍靴の悪夢霜柱
本堂にロックの響く聖夜かな
宣戦を文語で告ぐる開戦日


古郡 瑛子

孔子像の肩ほのぼのと木の葉降る
燗酒を待つ間魚河岸雨となる
亡き母の眼鏡よく合ひ賀状書く


小田絵津子

アベマリア流るる書肆に日記買ふ
くづるるは吾が心かも霜柱
被せ藁を光背として寒牡丹


本郷 民男

万両に廃寺の盛り偲ぶかな
焼鳥の串豪快に口で抜け
ふたとせの空白埋めて忘年会


野村 雅子

雪吊の思ひのほかに小さき松
おほかたは不要不急の老の春
五波六波波収まらず寒に入る


河村 綾子

丸太組み石の地蔵の雪囲
故き日の日記目通す夜半の冬
店先に鬼打ち豆の出揃ひて


高草 久枝

冬椿波郷旧居のしじまかな
雪吊はバランス大事かしら云ふ
熱燗や隣のさのさはじまりぬ


荒木 静雄

ラグビーや戦士の誉れノーサイド
ラガーらの似合ふ口髭縞のシャツ
ブースターワクチン終へて春を待つ


島村 若子

雪吊のあとを静かに待つばかり
騙されたと思つて食へと狸汁
豆皿の米つぶに来て初雀


大多喜まさみ

降り積もる鎌倉の谷戸雪まろげ
豆撒くも心の鬼は追ひきれず
天狼にリリー・マクレーン口遊む


高橋栄

冬構金沢職人大学校
朝にパン夕に焼鳥匂ふ街
風花や若狭の鯛に塩を振る


(つづきは本誌をご覧ください。)