東京ふうが71号(令和4年秋季号)

秋季詠

本誌「作品七句と自句自解」より


蟇目良雨

(自祝 八十歳)
日本橋渡るや露の八十歩
里山の普段着ながら粧へる
香炉灰篩ひつくして盆用意


乾 佐知子

十六夜や紅柄格子の薄明かり
吊し柿日差し明るき母の部屋
寺巡るけふ大和路は野菊晴


深川 知子

名月やスカイツリーを脇に置き
十六夜や一人の夕餉つつましく
鰡飛ぶや毛馬の閘門伽藍めき


松谷 富彦

笹乃雪律を走らせ新豆腐
優勝旗白河を越え八月尽
東山炎のドット大文字


古郡 瑛子

追伸に見ゆる本音や酔芙蓉
兄嫁のてのひらで切る新豆腐
毒きのこ踏めばまつかな息を吐く


小田絵津子

親牛に仔牛ひた寄る草の花
ハンサムの案山子が暇をもてあます
廃線を跨ぎて組まれ峡の稲架


本郷 民男

前菜に村で名高き新豆腐
遥拝の山が神体天高し
天山と高さ競ふや秋の雲


野村 雅子

秋の浜砂のきしみを一歩づつ
虫集く今宵弦楽セレナーデ
夕闇のそこだけ白く貴船菊


河村 綾子

朝露に子狐の尾の煌めきて
転がして裏まで描くラ・フランス
鯔飛んで右往左往のカメラマン


高草 久枝

月の宴平家「小督の巻」ならむ
祖母教ふる芋煮はとろ火気は長く
周五郎書きし青べか鰡飛べり


荒木 静雄

異国の地土葬の同胞草の花
本郷台坂の多さや草の花
酔芙蓉ワインの回し飲み気分


島村 若子

新豆腐店主は喇叭吹きたがり
鰡飛んでにはかに羽田釣日和
芋の露ひとつひとつに乱反射


大多喜まさみ

盆僧の茶髪にピアススケボーで
暗闇に白き花見ゆ花茗荷
沖縄の焦土に芭蕉植ゑ布へ


高橋 栄

ぐつたりと皿に横たふ熟柿かな
枝豆を箸置にして立呑屋
旅の夜のこむら返りやいとど跳ぶ


弾塚 直子

東京に新涼の空智惠子抄
草の露踏んで巡れる伽藍かな
夕風やあをあを冷ます月見豆


(つづきは本誌をご覧ください。)