東京ふうが71号(令和4年秋季号)

歳時記のご先祖様 5

本郷民男

─ 『荊楚歳時記』中 ─

歳時記という名が付いた最初の本がこれです。前回は書誌的事項で終わったので、今回は正月から始めます。

〇正月の一日は三元の日で爆竹を鳴らす

三元には、いろいろ意味があります。「天・地・人」を三元と致します。明代には進士の合格者で上位三人を三元としました。月並俳諧では、天・地・人に、景品を与えました。ここでは、年・月・日の始まりだから、元日を三元の日としました。さて、元日には爆竹を鳴らして鬼神を追い払います。火薬を使う爆竹ではなく、竹を燃やすと節が抜けたり裂けたりして破裂する。それが爆竹です。
後に、一月、七月、十月の十五日を、上元、中元、下元と呼ぶように変貌しました。上元(小正月)のどんどは、門松の松や竹を燃します。その時に爆発する竹が、本来の爆竹です。後の爆竹は、紙の筒に火薬を入れるようになりました。どんどに入れられた達磨さんは、人間爆弾?となって破裂します。紙製だから、あれも爆竹です。
韓国の慶州では、元日になったとたんに、石窟庵ソッタラムで除夜の鐘をつき、爆竹プクジュク花火プルコッに点火します。爆竹と花火の音・烟・火薬の匂いで、厳粛とは無縁です。「今の中国では爆竹を鞭炮ビエンパオというから爆竹という言葉は日本しか残っていない」と書く人もいます。でも、中国に爆竹という表現は残り、韓国でも爆竹だから、間違いです。

〇お屠蘇や七草粥など

元日には、椒柏酒・屠蘇酒などを飲み、鶏卵一個を食べます。椒柏酒の椒は山椒の実、柏はビャクシンの葉です。こうした物は、仙人になる方法を説いた『抱朴子』に説かれた仙人になる薬です。さらに注では、雄黄と丹散を練った丸薬も出てきます。硫黄と水銀朱とも見られ、薬どころか劇薬です。危ないものも混じっていますが、屠蘇酒は建康や長寿にかなうものとして、元日の飲み物として定着しました。鶏卵は命を頂くものとして、栄養よりも霊力を期待されたようです。
正月七日を人日とし、七種の菜を以てあつものとなすとあります。温暖な揚子江沿岸では、七草粥を食べました。北の地方では煎餅を食べたという注もあり、新暦で無理して七草を揃えず、煎餅を齧りながら「これで良いのだ」と茶飲み話でもしましょう。


(つづきは本誌をご覧ください。)