月刊俳誌「東京ふうが」平成27年秋季号通巻43号表紙

東京ふうが43号(平成27年秋季号)

「遊ホーッ」「遊ホーッ」288より(2015・9)

洒落斎著

①ミレーの絵

「落穂拾い」、「種まく人」、「晩鐘」などで有名なミレーの絵は、大変に日本で好まれているが、これらの絵には違った鑑賞も必要なことをある本から知ったので紹介します。
その本は1990年9月に発行された東京大学公開講座『土』の中の川端香男里著の「土」のユートピアという章に記載されていたものです。長い引用になりますがお読み下さい。
ミレーの絵の「落穂拾い」が描かれたのは1857年、19世紀も後半に入りかかったところである。この「落穂拾い」はルーブルにある有名な絵で、日本にも1966年ごろに本物がやってきた。ミレーの絵は日本人が考えるほどフランスでは大事にされていない。こういうものを大事にするのは日本人だけとまことしやかに言う人がいるが、この作品に
はどうもヨーロッパ人の趣味に合わないところがあるのは確かである。落穂拾いというのは土地を持っている人が収穫するときに根こそぎ全部収穫しないで、後で貧しい人に落穂拾いさせて、そういった人たちにも食べるものを与えるというキリスト教的な博愛精神に基づいてヨーロッパでは伝統的に行われている一つの風習である。土地をもたない貧しい農民が収穫が終わった大地主の土地に行って落穂を拾って自分たちで脱穀してかろうじて細々とした生活の足しにする。いわゆる貧民の生活を描いたものである。そういう貧しさこそ心の美しさを一番表現しているというロマン派的主張をこの絵はもっている。大地と直接結びついているような生き方をしている農民にこそ本当の生き方がある、という考え方を下層の農民の姿で表現している。思想は非常にロマン主義的であるのに、描き方は非常にきっちりしていて古典主義的あるいはリアリスティックですらある。これはヨーロッパ人のセンスに合わない。ヨーロッパ人は形式と内容の一致を非常に大事にする。古典的ならもっと優雅なものを描けばいいじゃないか、例えばアングルのような美しい調和的な美人画でも描けばいいだろうという考え方で、これは1857年に出品されたときに大変激しい非難を受けたものである。


(つづきは本誌をご覧ください。)