季刊俳誌東京ふうが 平成28年冬季新年号通巻44号

東京ふうが44号(平成28年冬季新年号)

【特集】美しき山神地祇を詠む

宮川杵名男の句集『律儀』の背景

高木良多

宮川杵名男の句集『律儀』の後記「略歴」によると、〈大正12年、熊本市に生れ、昭和52年「風」入会、昭和
60年「春耕」に同人参加、平成2年熊本県玉名市に帰郷。第一句集『草千里』、第二句集『山河抄』を発行〉とある。
また「略歴」中に「風」から「春耕」に同人参加ということがあるがこのことは大変に勇気の要ることである。い
わば移籍するということであるからである。
「春耕」では杵名男と「春耕」の同人小林螢二と私の三人で月山に登頂している。杵名男は海軍将校出身、小林螢二は陸軍将校候補出身ということでもあった。
そのことなどから三人が仲良く自由に自分自身の抱負などを語り合える仲でもあったことから今回『律儀』を見る
ことによって杵名男俳句における抱負を自由に語っているようにも思えたので大変なつかしく拝読することができた。
『律儀』作品の中ではまず固有名詞の使用が多かったよう
に思えたのが第一印象である。
「風」では俳句制作の方法として写生ということを大切にされていた。そのためある指導者は写生という方法を重んじるために固有名詞を作品中に容れる方法をなるべく避けるようにとのことを指導していた。
この「風」の指導者の指導方針に対して杵名男の作品には固有名詞の使用が非常に多く「風」指導者の方針に反す
るかのように思えたのでその例句と固有名詞の背景を述べながらの詩論をみちびき出してゆきたいと思うのである。

『律儀』の作品中固有名詞の使用されている句は、田原坂で三句、不知火で三句、柳川で一句、熊本で三句、九重で一句、太宰府で一句、天草で六句、阿蘇で十二句、志賀島で一句、普賢岳で六句、桜島で一句、ふるさと玉名市で三句、その他一句で計四十二句ほどの句数が詠まれているのである。
杵名男は平成2年玉名市に生家のある居所に住所を移しているので、句集『律儀』の中には主として故郷九州での作句がほとんどである。
律儀とは梵語で〝心身を抑制すること。善行。禁戒の意である〟とあるので『律儀』の中の固有名詞は故郷九州での山神地祇に対する格別の意味があり、杵名男の心からの律儀なのであろうと思えるようになった。
第三者的に見ている、報告のような固有名詞ではなく、九州での山神地祇に同化して詠んでいる固有名詞なのである。
以下九州での山神地祇に対する杵名男の俳句に対応する固有名詞を左に列挙してその理由の補完をしてみたいと思うのである。


(つづきは本誌をご覧ください。)