俳句とエッセイ「東京ふうが」平成28年秋季号

東京ふうが47号(平成28年秋季号)

秋季詠

本誌「作品七句と自句自解」より


高木 良多

一と房にして緊密や黒葡萄
街路樹の実の鈴生りや体育祭
坂に出て卍まはりや秋の蝶

蟇目 良雨

甕に水たつぷり汲むや夕野分
古利根の闇濃かりけり虫送り
なまなまと天を焦がせる大文字

鈴木大林子

梟の知恵借りに行く森の奥
海鼠腸に能登の海鳴り遠く聞く
いつの間に咲きし柊散り初むる

乾 佐知子

燈火親し父の日記の青インク
秋蝶の縋りし草の秣色
千木鳴らす色なき風の澄みにけり

井水 貞子

稽古笛洩るる格子戸酔芙蓉
秋海棠水舟溢る木曽路かな
秋時雨路地裏に買ふ絹豆腐

深川 知子

梟の闇や天誅志士眠る
新走り秘仏にまみゆ夜を一人
熱の子にしぼる葡萄の五・六粒

松谷 富彦

夜霧濃しコンビニ包む孤愁かな
ざりがにの寝返り打てり十三夜
はふはふと口に風入れ焼秋刀魚

井上 芳子

猿追ひのロケット弾や秋深し
菊の香や猿の声する山の墓
新蕎麦や百畳敷の蚕屋のあり

花里 洋子

月明の湖心の色や山気澄む
鶏頭の頭のちぐはぐや風はらむ
地球儀にはてしなき夢子規忌かな

石川 英子

浅間嶺の噴煙痩せる神の留守
岩間噴く硫黄幾筋ななかまど
湯揉み板返しかへして秋惜しむ

堀越 純

流燈のたゆたふ日暮御巣鷹忌
伊香保路や山雨にけぶる葛の花
未熟さのいいわけやめよ吊し柿

古郡 瑛子

燈火親し母の似顔絵かいてみる
小鳥くる海を讃ふる師の句碑に
十三夜潮に傷みし芭蕉像

髙草 久枝

草の花つみゐし母のあどけなく
萩盛る古刹に雨の音ゆるく
曼珠沙華戊辰戦争跡なりし

荒木 静雄

柊は棘の中より花こぼす
柊も老いれば葉つぱ丸くなり
山茶花や蕾の数のただならず

河村 綾子

六十年ぶりの筑波の冬紅葉
陽のまぶし頂とほる小春風
筑波背に畑もの売る苅田道


(つづきは本誌をご覧ください。)