東京ふうが60号(令和2年冬季・新年号)

冬季・新年詠

本誌「作品七句と自句自解」より


蟇目良雨

短日や妻の介護をてきぱきと
大津絵の鬼見てをれば初時雨
印泥を練り直しゐる一葉忌


鈴木大林子

近江には仏門多しクリスマス
先頭は誰とも知れず大花野
雪白し銃の重さを我知らず


乾 佐知子

嶺わたる風瑞々し甲斐の春
杜氏去る日も近づけり迎春花
能面の空ろなまなこ実朝忌


深川 知子

夜の闇を濡らし音無く初時雨
初霜や結界に落つ鳥の羽
子を膝に文字無き絵本一葉忌


松谷 富彦

一瞥で終わる儚き賀状かな
鷽替へて今年の嘘のつき初め
海鼠にも言ひたきことの二つ三つ


花里 洋子

身を寄せてバス待つ黙や除夜詣
観覧車のうごき凝視める冬の暮
青く塗る閼伽井のポンプ輪飾す


小田絵津子

荒海へ一本道や枯尾花
明けきらぬ山河つらぬく初鴉
木造の門前駅や注連飾る


石川 英子

病める身の背ナの水抜く去年今年
背ナに管胸に管入れ寒の入
オプジーボの点滴に来る寒波かな


堀越 純

階段の凹みに凍てのひそみをり
凪広ぐ湖畔の宿や星冴ゆる
大鯉のがばりと揺らす寒の水


古郡 瑛子

短日や乱歩の書庫の闇匂ふ
経師屋の糊の匂ひや年の暮
注連飾る柔らかき日が家の扉に


河村 綾子

小夜千鳥葛湯だんだん透きとほり
風花や山に真向ひ画架立つる
潜りてもすぐに貌出す幼な鳰


髙草 久枝

神籬の銀杏の大樹冬ざるる
鎌倉の宮の薄ら日実朝忌
子ら去りし遊具の影の寒雀


荒木 静雄

歳に負け愛車手放す年の暮
買初めや慣れぬ支払ひキャッシュレス
初日記想ひを馳せる十年後


島村 若子

三分でやぐら崩るるどんど焼
日溜りをふくら雀と過ごしけり
江ノ電のどこで降りても実朝忌


大多喜まさみ

春隣どこも苦地蔵に励まされ
初詣お神酒戴きはしごする
成人の日若き翁の三番叟


本郷 民男

大唐の眠るほかなきマスクかな
日本橋の擬宝珠に対の注連飾る
乗初は新聞取りの昇降機


野村 雅子

冬の日や柴垣匂ふ大嘗宮
残照に終の輝き枯尾花
等伯の墨の濃淡雪催


宮沢 久子

鈍色の雲の重たさ雪催
反古にする紙は山ほど年の暮
賑はひを源氏の池に寒牡丹


(つづきは本誌をご覧ください。)