東京ふうが70号(令和4年夏季号)

夏季詠

本誌「作品七句と自句自解」より


蟇目良雨

甘酒や神田囃子の笛太鼓
陸続と妻の思ひ出ところてん
昼顔の千切れんばかり風の中


乾 佐知子

蟻の巣を壊す童の一途かな
泡一つ吐きて金魚のそつぽ向く
鎌倉を巡る日傘を求めけり


深川 知子

姉いまは母より母よ聖五月
へくそかづら咲いて今無き羅城門
跡目なき叔父の墓標を虎が雨


松谷 富彦

穀倉の国は戦火の麦の秋
船虫や逃げる術なき民思ふ
摩文仁の丘血の色残す仏桑花


古郡 瑛子

甘酒啜る峠の茶屋の木漏れ日に
師の逝きし日きのふの如し海桐咲く
鯉のぼり分け合ふ風の三輪車


小田絵津子

緑蔭で充電中の縄電車
明神の太鼓鳴り出す一夜酒
農道に車の並ぶ田植晴


本郷 民男

甘酒を昼懐石の締となす
無人駅縄張となす灸花
鼻に入るもじつとがまんや麦こがし


野村 雅子

母の忌やあの日のやうに擬宝珠咲く
花桐やダム放流のアナウンス
白壁の窓辺彩るゼラニウム


河村 綾子

白き柵に小牛の鼻面五月風
三日目に山宿晴れて灸花
南風吹く文人過ぎたる真砂坂


高草 久枝

連子窓すけたる楠の茂りかな
誕生日水貝初めて塩つけし
遣唐使いでし宮居の風薫る


荒木 静雄

聖五月和平奏でるバラライカ
ハイビスカス偲ぶ沖縄今昔
杖に替へ傘持ち歩く走り梅雨


島村 若子

経験に無駄なものなし心太
一つジャンプして来年も蟇
生きる気にさせ真新し冷蔵庫


大多喜まさみ

並び建つ電信柱に閑古鳥
方丈に如来と伴に昼寝かな
にらめつこ猫に負けるな蟇


高橋 栄

ひる酒を誘ふ蕎麦屋の夏のれん
裏山の墓にときをり蟇
ごみ袋突く鴉や朝曇


弾塚 直子

引き抜けばひと塊や灸花
虎が雨やぐらに供花の新しき
うすうすと芋粥甘き我鬼忌かな


(つづきは本誌をご覧ください。)