東京ふうが72号(令和5年冬季・新年号)

歳時記のご先祖様 6

本郷民男

─ 『荊楚歳時記』下 ─

〇夏至には粽を食べる

『荊楚歳時記』は散逸したのを復元されていますが、五月・六月あたりはだいぶ欠けています。また五月を「悪月」としています。『礼記』では五月には日の長いことが極まり、陰陽が争うなどとしています。今の五月はむしろ爽やかな時期ですが、旧暦だと梅雨に入る時期です。そして、夏至も五月です。蒸し暑く食中毒も多い、そんな時期だから粽を食べて乗り切れということでしょう。諸本に、「夏至節の日に粽を食う」とあるのは共通しますが、本来どんな説明だったのか良くわかりません。
 『風俗通』では、獬豸かいちおうちを食べるが、蚊龍みずちは楝を恐れるとし、人々は竹の筒に粽を入れ、楝を刺してから川に投げると書いています。屈原が夏至に川に身を投じたとして、粽を投げて供養します。ところが、蛟龍が粽を食べてしまうので、新しい竹を切った筒に入れ、蛟龍の嫌う楝を刺すというのです。粽が厳重に包んであるのは、蛟龍に食われないためです。
 獬豸を知らない人も多いと思います。想像上の猛獣で、ライオンに角が生えたような姿で表現されます。善悪を判定する能力があり、虚偽を主張する悪人を角で突き殺すとされます。そこで、裁判官の冠に獬豸を表し、裁判所の入り口に、一対の獬豸像が守護神として置かれました。韓国でも獬豸をヘッテと呼んで守護神とします。ソウルの景福宮キョンボックンの正門である光化門クヮンファムンの両側を獬豸ヘッテ像が守ります。私が住んでいた西洋長屋の入り口にも、対の獬豸像が置かれていました。中国・韓国で狛犬と間違えませんように。


(つづきは本誌をご覧ください。)