令和5年夏季号 佳句短評

東京ふうが 令和5年夏季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報459回〜462回より選

角合はす牛の眼力油照  乾佐知子

真夏の牛相撲大会の一こま。隠岐や山古志では八月に闘牛が行われるから、こんな光景が見られるはず。角を合わせて一歩も退かない牛の眼を見れば、戦う意思をこめた眼力そのもの。多くの旅の中から得られた一句。油照の季語の採用で眼が脂ぎっているように思える。

魚の尾のまな板を打つ走り梅雨  田中里香

活き魚を調理するとき魚の種類は限定されるだろう。鯛、ヒラメ、鯵や鯉なども該当する。まな板に置かれて捌かれる魚は尾鰭を激しく俎板に打ち付ける。水しぶきがあたりに飛んだ刹那に、作者は梅雨の到来を感じたのではなかろうか。

遠くまで行くんだ僕の好きな夏  伊藤一花

お孫さんの言葉をそのまま句にしたように思った。夏休みにどこに行くのと尋ねたら「好きな夏だから遠くまで行くんだ」と返事をしたのだろう。多分これが正解だと思うが、作者自身も活動的な方であるから、心の底では同じようなことを叫んでいると思った。