冬季・新年詠
本誌「作品七句と自句自解」より
蟇目良雨
娘らの夏服襤褸をまとふかに
(長嶋茂雄死す)
玉虫の玉虫色は不滅なる
思ひ出す悔や胡瓜の疣に触れ
乾 佐知子
岩燕雲のかかりし湯殿みち
網戸入れ母の寝息の整ひし
えごの花磯へ片向く古墳みち
深川 知子
帰宅せる父麻服の皺を抱き
傾いて来るは父さん西瓜提げ
網戸よりドボルザークが風に乗り
田中 里香
梅漬けてまたひととせを生きむとす
だるまさんがころんだ竹の子が竹に
上布着る穏やかな波纏ふやに
松谷 富彦
鉄の雨降りし沖縄花蘇鉄
摩文仁の丘血の色かとも仏桑花
ガマ(自然洞窟)に向け火炎放射器沖縄忌
弾塚 直子
夏服をつめて小さき旅かばん
赤子泣く声もなけれど明易し
山頂の茶店にすする氷水
本郷 民男
奈良朝の官衙残して植田かな
蔓といふ発条もあり時計草
白鷺の忍び足する夜の漁り
野村 雅子
濃く淡く青水無月の山幾重
後戻りできぬこの旅走馬灯
時禱書のラピスラズリや星涼し
高橋 栄
東京物語観ての妻との豆ご飯
横たはる鮎うつすらと月のいろ
座を正し雲見据ゑたる雨蛙
島村 若子
風のままに吹かるる夫のアロハシャツ
一軒の隠れ家めきて夜の網戸
単足袋きりりと指の透けるごと
鈴木 さつき
刈りたてを父が投げ込む菖蒲風呂
夏服の柔軟剤の香の漢
煩悩坂下り始むるとき涼し
伊藤 一花
いきなりの晩鐘一打古都涼し
涼しさや一人に広き一軒家
暑気払いずずつと啜るスムージー
関野 みち子
小気味よく鱧の骨切る男ぶり
誰もまだ逝くこと知らぬ西行忌
余技なくて無為のひと日や餓鬼忌なり
鶴田 武子
白玉や母のネイルを褒めもして
大西日埴輪の眼貫きぬ
羅の孕む離宮のうしほ風
前阪 洋子
空蟬の朝日に透くる笹の先
最強の西日に挑む夕仕度
緑陰に聞きゐる真田太平記
河村 綾子
向日葵に人の一生見た様な
つくつくし鳴きて母の忌来たりけり
青胡桃優しく問へる新ドクター