東京ふうが72号(令和5年冬季・新年号)

冬季詠

本誌「作品七句と自句自解」より


蟇目良雨

夜神楽にいつか加はる鼓星
交はりの二三捨つるも年用意
お披露目のやうに見合ひのマスクとる


乾 佐知子

夜神楽の果てて見上ぐる明けの空
末枯るも更地になほも師の気配
取りこぼすまじと恋の歌かるた


深川 知子

冬桜嵯峨野の旅のはじまりに
雲はいま日に染まりゆく淑気かな
近松忌佳き富士知らすアナウンス


松谷 富彦

ざくざくと軍靴の響き霜柱
寒晴やミサイル飛んで来る恐怖
潮騒の尖りて聞こゆる寒波かな


古郡 瑛子

鮟鱇鍋箸で肝追ふ父なつかし
現し世の別れいくたび冬桜
鍵穴に茶の花挿して留守の家


小田絵津子

鉢巻を達磨に締めて初商
鷽替や行きも帰りも太鼓橋
出を待てる大蛇ほろ酔ふ里神楽


本郷 民男

坐の庭に優るや動の落葉道
鉄の雨やまぬ東欧去年今年
昆虫の偉大さ人の日に学ぶ


野村 雅子

参道に分散和音木の実落つ
ショベルカー搔き出す土の匂ひ冴ゆ
さざ波は揺り籠なるか浮寝鳥


河村 綾子

薪を組む宿のありけり冬桜
裸木を主役となせる落暉かな
一音の後に発止と歌留多取る


高草 久枝

ウイルス禍臥して迎へる去年今年
初詣ゆくこともなく子と猫と
冬薔薇どこかに妣のゐるやうな


荒木 静雄

冬桜淡く疎らに咲き初めり
亡き妻の今際の和み冬桜
コロナ禍や声を抑へて歌留多取り


島村 若子

テレビ体操終へて始める年用意
鮟鱇鍋まづは魚拓で驚かす
お気に入りの布で湯たんぽくるまるる


大多喜まさみ

降る雪に実朝見ゆる大階段
かがり火の消えて海より初茜
ぬかるみに足をとらるる義仲忌


高橋 栄

父嚏力道山は逆襲す
乳呑み子の指に力や末枯るる
パンダの背ばかり見ている小春かな


弾塚 直子

湯豆腐を芯まで熱く雨の夜は
菩提寺を訪ふことも年用意
春を待つモネの画集を膝上に


(つづきは本誌をご覧ください。)