東京ふうが52号(平成30年冬季・新年号)

冬季・新年詠

本誌「作品七句と自句自解」より


蟇目良雨

福寿草母の三時の独りごと
砂町のあの日のふくら雀かな
月食の夜の啐啄や寒卵

鈴木大林子

線下地も住めば都や枯木星
本郷は坂多き街七五三
釣瓶落し老人会の一人減る

乾 佐知子

一葉の井戸の盛り塩寒雀
冬帽子切火を打ちて出航す
小正月常と変らぬ日々のこと

井水 貞子

鎌倉の海の温みに冬すみれ
白菜漬氷れるままや山の宿
波の花打ち砕かれて風にとぶ

深川 知子

花八ツ手水滾々と生家の井
奈良町に迷ふも愉し鳥総松
星々を払ひて寒の月欠くる

松谷 富彦

海鼠にも喜怒哀楽のありさうな
犬猫に年賀状書く獣医かな
朝市の人を分け行く寒念仏

井上 芳子

初読みのタゴール詩集ジュニア向け
お富さんの歌もいで来し女正月
名古屋より挙式の案内実千両

石川 英子

八重垣神社の水占吉と初笑ひ
正面に伯耆富士座す淑気かな
国を曳くごとくに掻くや寒蜆

花里 洋子

冬帽を顔に仮眠の山の駅
寒禽の声のきりさく雑木空
方位盤の凍てゐる文字を拭き読みぬ

堀越 純

家苞に焼きまんじゅうやゑびす講
御巣鷹山の尾根の閉鎖や鐘氷る
風哭くや波の花散る親不知

古郡 瑛子

日向ぼこあの世だあれもゐないかも
室の花香の溢れゐる画廊かな
番台の猫に冬帽新しく

小田絵津子

つつがなく連なる幸や初句会
丸善の混みて靜かや松も過ぎ
人去りしベンチにふくら雀かな

髙草 久枝

室咲の薔薇にも新種あるらしく
妣の書の脇に置かれし実千両
打ち豆の匂ひとどめし巫女の顔

荒木 静雄

病む妻の年越し叶ふ晦日蕎麦
日記買ふ残る歳月ある限り
声かけて灯りを消すや室の花

河村 綾子

薪を積む山家の門や冬初め
朝の陽と落葉の風や清々し
文字太き開拓の碑や一位の実

春木 征子

取られまじ婆のおはこの歌がるた
筆蹟に師の息遣ひ初暦
方丈記書き写しをり冬籠

大多喜まさみ

俎板にトントン唱ふ七草を
袴着て成人式も耳ピアス
「SEIMEI」にプーさんシャワー冬五輪

島村 若子

冬木立飛行機雲の尾をつかむ
空き家にも人住むごとく軒氷柱
千両や手繰り寄せれば逃げらるる


(つづきは本誌をご覧ください。)