寄り道高野素十論 24
蟇目良雨
─ 村松紅花 村松友次 資料─
私が高野素十に打ち込んできたのは村松紅花先生と偶々お会いしたことから始まった。紅花先生は村松友次が本名で、地味な俳諧の研究者なので俳壇的にはその名が広く知られていないきらいがある。分け隔てなく接していただいたことやいつまでも少年のような探求心をお持ちであった。その広い心を持つことになったことは紅花先生が苦労をなさった経歴にあるのではないだろうか。
この章では紅花先生の姿を多くの方に知っていただきたくて資料を集めて見た。先生の実像に少しでも迫れれば幸いである。
村松(本名 )
1921年(大正10年)1月30日 〜2009年(平成21年)3月16日 享年88。
国文学者、俳人。
【村松紅花略歴】
- 大正10年
- 1月30日、長野県小県郡丸子町(現上田市)生まれ。
- 昭和13年
- 長野県立丸子農商学校(現、丸子実業高校)卒業。
同年、名古屋銀行(東海銀行、三菱東京UFJ銀行)に就職。一年で退職。満州撫順に渡り満鉄に就職。後、ハルピンに派遣され、白系ロシア人家庭に止宿しロシア語学習に専念する。 - 昭和16年
- 胸部疾患のため帰国療養。
- 昭和17年
- 南知多療養所の句会に参加し作句を始め「ホトトギス」に投句。
- 昭和18年
- 夏、丸子に戻り木村蕪城の指導を受ける。
- 昭和19年
- 長野県南条小学校助教(代用教員)となり、後、試験検定にて本科正教員になる。
- 昭和20年
- 小諸虚子庵で高浜虚子の指導を受ける。俳号の紅花は、虚子が訪ねて来た誰かのために考えた四つの俳号の一つで、不要になり屑籠に放られたものを紅花が拾い虚子の許しを得て貰ったもの(本人談)。
- 昭和23年
- 樋口ひでと結婚し、小諸虚子庵の留守番として小諸に移住。30年まで虚子庵を守る。
- 昭和24年
- 9月号より、木村蕪城の創刊し後に休刊中の「夏爐」を復刊、発行する。「夏爐」第一ページを素十選にし雑詠を山口青邨選にして昭和26年郵便三種を貰うまでになった。(500部以上講読会員が居たということ)選の謝礼は盆暮れのみ。
- 昭和30年
- 小諸を去り、東京都下大島の岡田小学校に赴任。「夏爐」を木村蕪城に返す。
ホトトギス発行所のある東京で教員が出来ると喜んでいたが大島が赴任地で少しがっかりしたが兎も角赴任した。(本人談) - 昭和32年
- 妻と子供二人を千葉県に移り住まわせて一人大島で自炊生活を続ける。高野素十が「芹」主宰発行。昭和五一年終刊まで投句。この間24四回巻頭を取る。
- 昭和33年
- 都内荒川区大門小学校に転任。東洋大学二部国文学科に入学。
- 昭和37年
- 荒川第九中学校夜間部に転任。東洋大学大学院国文学専攻修士課程に入学。同三九年同博士課程に入学。
- 昭和41年
- 東洋大学短期大学専任講師となる。43年助教授、50年教授となる。
- 昭和51年
- 素十病篤く、9、10、11月号の「芹」雑詠の代選を行う。10月4日素十死去。「芹」終刊となる。
- 昭和52年
- 新潟県亀田町より「雪」創刊(10月号より)推されて雑詠選者になる。
- 昭和60年(1985)
- 「芭蕉の手紙」で第四回俳人協会評論賞受賞。
- 昭和62年(1987)
- 1987年「曽良本『おくのほそ道』の研究」で東洋大学文学博士。論文内容は「おくのほそ道諸本(所持・柿衞、曽良、河西本)の性格 : 特に曽良本本文の重要性について/曽良本『おくのほそ道』の検討/河西本『おくのほそ道』(影印)解説」
- 平成8年
- 妻ひで逝去。
- 平成18年
- 「雪」選者を辞し新たに起こした「葛」を主宰する。
東洋大学短期大学学長、名誉教授。放送大学客員教授を歴任。
近世俳諧が専門。俳諧研究、俳句の後継者に、谷地快一、池田俊朗、久保田敏子、真下良祐、大河内冬華など。歌人に江田浩司。
【著書】
•『新資料による芭蕉の作品と伝記の研究』笠間書院/1977年
•句集『梁守』永田書房/1978年
•『俳人の書画美術 第4巻 中興諸家』集英社/1980年
•『古人鑚仰』永田書房/1982年
•『芭蕉の手紙』大修館書店/19875年
•『花鳥止観』永田書房/1986年
•句集『木の実われ』永田書房/1988年
•『曽良本『おくのほそ道』の研究』笠間書院/1988年
•句集『村松紅花集』俳人協会/1990年
•『蕪村の手紙』大修館書店/1990年
•『素十俳句365日』永田書房/1991年
•句集『俳恩』永田書房/1994年
•『続 花鳥止観』永田書房/1994年
•『一茶の手紙』大修館書店/1996年
•『俳句のうそ』永田書房/1997年
•句集『村松紅花句集 破れ寺や』日本伝統俳句協会/1999年
•『芭蕉翁正筆奥の細道 曽良本こそ最終自筆本』笠間書院/1999年
•『『おくのほそ道』の想像力 中世紀行『都のつと』との類似』笠間書院/2001年
•『謎の旅人曽良』大修館書店/2002年
•『対話の文芸 芭蕉連句鑑賞』大修館書店/2004年
•『夕顔の花 虚子連句論』永田書房/2004年
•句集『夕日ぶら下り 村松紅花句集』日本伝統俳句協会/2005年
•『評伝高野素十』永田書房/2006年
【村松紅花俳句作品】
『簗守』
十三に父を失ひ十三夜
虚子旧廬或る日さびしや蟇の雨
貝寄風や島の子として吾子育ち
冬浪の嚙みつく岩に十四五戸
晩学や梅雨の都電に辞書を繰り
埋火のごとき一句を得たきかな
貧乏を妻子にさせて卒業す
髪に霜殖えつヽ夜学教師たり
行く秋ぞとぞ読み終へぬ一古典