冬季・新年詠
本誌「作品七句と自句自解」より
蟇目良雨
口中を射すほどごまめありがたし
平成の果て初刷に猪の絵が
何はともあれ新年のめでたさよ
鈴木大林子
猛犬に追ひ払はれし探梅行
棟梁の仕事指図や朝焚火
バスを待ち羽子板市の日と知れり
乾 佐知子
五郎助の啼く夜や母の針仕事
海光に浮かぶ島々雁帰る
近江路の湖もろともに冴返る
深川 知子
寒雷や遠き記憶に父の声
枇杷の花手放す家に碇を鎖す
喪ごころに選ぶポインセチア真白
松谷 富彦
義士会や吉良邸跡に井戸一基
鶴の舞ふごとき乱取り寒稽古
人の輪を後ずさりさせどんどの火
花里 洋子
読みきかす声の三役ポインセチア
空を突く空手の子らの寒稽古
舞初のをんな小粋や男舞
石川 英子
ゴンドラを乗り継ぐ弥山初霞
原爆ドームに外人多き五日かな
坂下り尾道に喰に大魴鮄
堀越 純
茅葺きの幾星霜や炉の父座
言の葉を腹に納むや冬の虫
焼葱をつつみて首に巻きしこと
古郡 瑛子
人日の芋粥匂ふ父祖の墓
公魚の湖のひかりを手にうくる
大根干す山麓の日を吸ひつくし
小田絵津子
芭蕉忌やはちきれさうな旅鞄
日かげりて音の高しや冬の滝
極月や社務所の壁のヘルメット
河村 綾子
白鳥の助走逞し水面蹴る
漆黒の夜を稲妻裂きにけり
冬の雷烈しき夜のドビュッシー
髙草 久枝
御朱印の一つ忘れし福巡り
寒に入る葛西の沖の波愛しき
早梅や石に寝牛の形とどめ
荒木 静雄
本郷の杜の掛け声寒稽古
病む妻の命の点る去年今年
母の背の稚児の手を振る小春かな
春木 征子
繰り返し母に学びし義士会かな
寺の鐘届くしじまや蜜柑剥く
掘り立てを媼の仕切る大根炊
島村 若子
拍子木の打ち鳴らされて夜の冴ゆる
半島の端の端まで大根干す
冬晴れや脱皮を始むカメレオン
大多喜まさみ
胸突き坂登りきったる初景色
霜除けに置きたる藁の下温し
観音に五体投地の冬の暮
本郷 民男
真白にぞ越の山染む冬の雷
瓦焼く火の来しごとき初日の出
人日やたとへ駄句でも生かさるる
(つづきは本誌をご覧ください。)