東京ふうが通巻66号令和3年夏季号

東京ふうが66号(令和3年夏季号)

夏季詠

本誌「作品七句と自句自解」より


蟇目良雨

手に握る鉄棒熱し原爆忌
妻がゐぬ旅寝の夜を青葉木菟
蚊の声もなつかし母の遠忌くる


乾 佐知子

将門の塔の山気や遠河鹿   (羽黒山)
セルを着て女さみしき薬指
窓みがくゴンドラ掠め夏燕


深川 知子

百歳の紅を涼しく引かれけり
カンナ咲く峠これより大柳生
青鷺の怖き一瞬見てしまふ


松谷 富彦

鷗外の墓に尻向け桜桃忌
原爆を二発喰らつて敗戦忌
日向水庶民つましき昭和かな


古郡 瑛子

結納話の路地につつぬけ南風吹く
母の家の枕かはりて明易し
セルを着て回転寿司で待合はす


堀越 純

空蟬のまだ濡れてゐる朝の日に
たたう紙に仕立て上げたる夏衣
蟬暑し渡る朱塗りの太鼓橋


小田絵津子

貼り足して芝生繕ふ梅雨晴間
白南風や天ぷら匂ふ日本橋
接種後の鈍痛続く水中花


本郷 民男

円タクで玉の井に行くセルの人
軍医の打つコロナワクチン鷗外忌
雨蛙庭で遊ぶや高山寺


高草 久枝

炎昼やスケボー少女金メダル
小流れに笹の葉流る涼しさよ
真夜の雷去りたる後の静寂かな


河村 綾子

夕風に揺れゐる薔薇や子ら駆くる
暁や柄長の群のいきいきと
暮残る垣の卯の花香のほのか


荒木 静雄

梅雨明けの玄界走る引揚船
セル・サージ化繊に変はる世の流れ
七変化境内狭しと咲き誇り


島村 若子

期日前投票に行く浴衣着て
吉き報せ届けてくれし朝の蜘蛛
彫刻の穴の青空梅雨明くる


大多喜まさみ

百年を経し公会堂梅雨ごもり
もの憂しと紫陽花に雨降りつのり
藍刈りて染まりし色の手美しや


野村 雅子

傘傾げあぢさゐの坂譲り合ふ
梅雨明けて念入りに揉む土踏まず
浮袋はめて自転車飛びゆけり


(つづきは本誌をご覧ください。)