夏季詠

季節の三句／夏季詠

本誌「作品七句と自句自解」より

高木　良多
洗はれて根の鴇色やあやめ草
夏桑へ起重機の荷の下りてくる
十薬の星のごとしや地震の後

蟇目　良雨
銀座裏の灯も懐かしき夏料理
赤ん坊の手もひらひらと豆の花
なんじやもんじやあつけらかんと咲きてをり

荻原　芳堂
干網の渋の匂ひや晩夏光
帯小さく結びし妻の夏衣
蔵窓の錆びし鉄柵桐の花

鈴木大林子
畦道にぐらりと傾ぐ麦車
ポケットにシャネルの小瓶夏衣
滝壺へエレベーターのボタン押す

井上　芳子
雲の峰ボトルに溢れ伏流水
夏芝居特設ステージ果てしあと
射的場のことに明るし夜見世の灯

乾　佐知子
かっこうの谺しきりや遠浅間
雷落ちて現世の闇をまつぷたつ
花ゆうな吹きつつ廻すガラス瓶

花里　洋子
大利根に葭切の声底知れず
少年の早口言葉ほととぎす
写経会や墨磨る音の堂凉し

積田　太郎
パンダ来て葉桜の園賑はへり
御柱落すにながき木遣節
夾竹桃咲きて被爆の跡もなし

石川　英子
復興の市に海鞘積む茅舎の忌　　塩竈
青葉潮津波に飛びし船着場　（鮎ヶ浜）女川
魂鎮め蝉鳴くばかり義経堂　　平泉

深川　知子
小刻みに走る卯波や壇ノ浦
犬飼はぬ字が吉野に桐の花
二階屋はいまも下宿屋蔦青し

太田　幸子
夕風や水打つ茶屋の紺暖簾
浜日傘波にただよふごむ草履
涼風や川面に揺れる宿明かり

元石　一雄
摘み残す茄子丸々と地に届く
吾と虫甘きもろこし分ちあふ
辣韮剥く千個漬け終へ樽二つ