曾良を尋ねて 9
甲州 谷村の出合い I
乾 佐知子
天和三年(1683)芭蕉と曾良が最初に出会ったとされる甲州谷村での一件は、確とした史料が残されているわけではないらしい。
岡田喜秋氏のように、旅好きの曾良がたまたま旅の途中で立寄ったのではないか、とする方もいられる。又一方では以前紹介した俳誌「雪」の主宰であり東洋大学の名誉教授をしておられた村松友次氏の著書『謎の旅人・曾良』には、曾良はこの頃から芭蕉の身辺に居たのではないか、と述べている。
その文章を抜粋すると、 (前略)その形跡というのは昭和三十四年発刊の雑誌「太白」に載った白石悌三、中西啓両氏による「曾良年譜」である。その中に
天和三年 三十五歳◦ 一説に、この夏甲斐の高山
麋塒(びじ)宅にて芭蕉と会い「鶯のちらほら啼や夏木立」
とある。
残念ながらこの天和三年の記事が何に基づくものなのか今不明であるが。と、村松先生もこれ以上深く解明されることはなかった。然し事実無根かも知れぬ史実がいまだに消されずに残されているという事から、多分この話は事実であろうと推察する。
(つづきは本誌をご覧ください。)