春季詠
季節の三句/春季詠
本誌「作品七句と自句自解」より
高木 良多
蘆の角古事記の神の山見ゆる
三椏の花や仄かに月の色
風立つやはくれんの花総立ちに
蟇目 良雨
十方に花吹き出して風桜
目のほかは隠して佐渡の牡蠣打女
みちのくに春の星座を組直す
鈴木大林子
沈丁の香る慶喜蟄居の間
釣人に踏まれて伸びる芦の角
藍染めの作務衣の匂ふ春の風
乾 佐知子
風呂敷のはらりと解けて桜餅
百灯を点す禅寺牡丹の芽
揚げ舟の乾く日和や芦の角
井上 芳子
稀覯本目録重し花の冷
枝つめる母のまなざし鉄線花
新装の図書館の窓百千鳥
石川 英子
月朧タージマハルは夢の跡 (アーグラー)
霾やや飾りたてたる馬車に乘り (カルカッタ)
火葬の火高巻くガート春の星 (ベナレス)
深川 智子
啓蟄の土手より放つ稚魚の群
寒明や宇治川いよよ藍を濃く
料峭の磐座に舞奉る
花里 洋子
身の丈の節電暮らし桜餅
ひよつとこが榊で招く獅子頭
初不動朱印の太字ほむらめく
元石 一雄
かささぎの古巣を包む木の芽かな
掛け軸に龍の一字や四月来る
春鴉翔ちし行方や紫禁城
堀越 純
売り声の産地確かめ蜆買ふ
寒明けや片膝をたて思惟仏
料峭や魚拓の口の半びらき
積田 太郎
名にし負ふ六義園なり大枝垂桜
南州の像にも桜蘂の降る
虚子立子並びし墓に花の雨
(つづきは本誌をご覧ください。)