東京ふうが 29号(平成24年 春季号)

銃後から戦後へ 21

東京大空襲体験記「銃後から戦後へ」その20

消えたスコップ

鈴木大林子

今回は、前回のお約束どおり実習期間中に起った数々の失敗談のうち第一話をお送りいたします。

これは運転業務実習の一環として機関助士の実務を経験した時の出来事でした。機関助士というのは蒸気機関車(SL)の運転を担当する機関士の助手で主な仕事は第一にボイラーの火床に石炭を投げ入れること。これは投炭と言って非常な体力と技術を要する仕事です。御承知のようにSLというのはボイラーの火床で石炭を燃やしてパイプの中の水を蒸気に換え、その圧力で車輪を回転させて走るのですから、エネルギー源である石炭を如何に効率よく燃焼させるかが大きなポイントになります。旧国鉄では走行距離当りの石炭消費量をチェックして機関士の勤務評定をしていたので、機関助士の投炭技倆の良し悪しがそのまゝ機関士の成績を左右するわけです。

仕事の第二は信号確認、SLはボイラーの胴体が先頭にあって運転席がその後方にあるため、カーブなどでは信号機が機関士の死角に入ることもあるためです。第三は、万が一走行中に機関士が急病などで意識を失ったような場合、助士が直ちに緊急停車の措置を講じないと重大事故につながり兼ねないので最少限の運転技術も要求されるというわけです。しかも投炭はすべて手作業。

(つづきは本誌をご覧ください。)