韓国俳句話あれこれ 20
本郷民男
▲ 金剛句歌詩集の内金剛
1927年の『金剛句歌詩集』の続編として、その「第二編 内金剛」を読むことにしましょう。まだ内金剛へ鉄道で行くことができず、内金剛へ行くのは困難を究めました。内金剛の玄関口に名刹の長安寺があったので、そこの地名まで長安寺と俗称されていました。
〇 内金剛 流東 有賀保治
仰ぎ見る内金剛や閑古鳥
〇 内金剛 碓川 井艸角太郎
登仙や内金剛は崖の下
〇 墨坡嶺 梅下 崔永年
紅泥滑滑樹濃濃 路入前山萃幾重
萬嶽千峯終日雨 八輪鋌蜿走如蛇
紅き泥の滑滑し、樹は濃濃。
路は前山に入り、幾重にも萃む。
萬嶽・千峯、終日雨なり。
八輪の鋌蜿と、走ること蛇の如し。
名前の上にあるのが号です。崔永年(1859~1935)は、『朝鮮文藝』主筆を経て、『国民新報』の主筆から社長に至った人です。屈指の儒者で、漢詩も日本人の遠く及ばない水準でしょう。この詩には自注が付き、自動車二台を連ねたので八輪と呼びました。
▲ 内金剛に向かう
〇 断髪嶺 齋洞 山本隆造
別れ路の断髪嶺や秋寒し
〇 百川洞 魯石 成田碩
宙川匯處一泓淸 滾滾西流珮玉鳴
千里朝宗江漢似 終南山下遶京城
宙と川の匯る處、一つに泓く淸みけり。
滾滾と西に流れ、珮玉が鳴る。
千里の朝宗こと、江漢に似たり。
終南山の下、京城を遶る。
韓半島中部の東海岸に太白山脈が聳え、海抜1638mの金剛山は、二番目の高峰です。そして、太白山脈の水が集まって漢江になり、西に流れてソウルを経て黄海に注ぎます。海抜824mの断髪嶺は、ソウル等から内金剛へ至るのに、越えなければならない難所です。
百川洞は金剛山の水が集まり、漢江北部の水源になっている所です。漢詩の作者は、『金剛句歌詩集』の編者です。作者「成田碩内」となっているので、前号にそう書きました。ところが、漢詩の作者としては、みな成田碩となっています。百川洞で水が集まる所から始まります。「江漢」は中国の大河・揚子江と漢江のことで、韓国の漢江も広く水を集めてそれらに似ているとしています。終南山は長安の南に聳える海抜2604mの山です。ここではソウル中心部のすぐ南の海抜265mの南山を指します。漢江は南山の南を経て、黄海に入ります。