東京ふうが75号(令和5年秋季号)

歳時記のご先祖様 9

本郷民男

─ 『東京夢華録とうけいむかろく』下 ─

〇七夕の玩具が季語に

 七夕には黄蠟(蜂の作った蠟)でカモ・オシドリ・亀などの形を作り、色を塗って金箔を散りばめ、水上浮と呼ばれるものが売られました。女の子が水に浮かべて遊び、大人になったら子供を授かるように祈りました。『唐音』十四巻の「宮詩」で、銀盤に化粧をもてあそぶとある「化生」がそれに当たるとされます。『唐歳時紀事』の逸文を引いて注が付いています。

 化生は元が西域で、摩睺羅まごらとも云うとあります。『東京夢華録』では水生動物の姿に作るとありますが、化生という時は赤ん坊の姿にします。仏教では卵生や胎生の他に、化生という生まれ方があります。親や卵を経ずに、浄土にいきなり生まれます。功徳を積んで浄土の蓮の花の中などに生まれ、最初は赤ん坊だけれどすぐ成人して如来になります。蓮華化生として、仏教美術の題材になっています。摩睺羅はサンスクリットのMahoragaの音訳で、八部衆の一つです。蛇の神で、インドに多いコブラを神にしました。摩睺羅と呼んだのは、男の子が生まれるようにという寓意です。実は仏教で如来は男と決まっています。化生で生まれると男限定の如来なのですが、摩睺羅と呼ぶことで念を押しました。ともあれ、「化生・水上浮・摩睺羅」などが、七夕に伴う秋の季語です。『東京夢華録』が出典の珍しい季語です。さらに夏の季語の「浮人形・浮いて来い」も、ここから来たのでしょう。

〇七夕には箱庭も

 七夕のお供えには「穀板」もありました。板の上に土を載せ、籾を撒いて稲を育てます。農家や樹木、小さな人物まで置いて、小さな農村風景にしました。中国では古くから小さな山水の風景や植木を作り、盆山と呼んでいました。陶器の盆や石の上で植木を主としたものが盆景ペンチン、つまり盆栽となります。穀板は木の板あるいは箱に作るし、箱庭でしょう。箱庭は夏の季語です。


(つづきは本誌をご覧ください。)