東京ふうが23号(平成22年秋季号)

東京ふうが 23号(平成22年 秋季号)

銃後から戦後へ 15

東京大空襲体験記「銃後から戦後へ」その15

時効になった話

鈴木大林子

 前号で、職員採用試験に合格の内示は貰ったものの、どう考えても身体検査の合格基準に全く達していなかった者が合格する筈がない。これは何かの間違いで追っ付け取消しの通知が来るだろうと覚悟して待っていると、やがて一足先に巡検から戻って来た工手長が「合格おめでとう、さっき区分長から聞いたよ。これからも皆と仲良くして大いに頑張ってくれ。」と言った後で「(この班で)落ちた者もいるから、あんまり大喜びはしないように。」と釘を差されました。言われなくても私の方は「どうせ取消される。」と肚をくくっているのですから大喜びなどしたくてもできないわけです。そのうちに皆がドヤドヤと昼食に戻りてんでに弁当を開き始めた頃合を見計って、工手長が「今度の試験で鈴木君が合格した。明日区長から辞令を貰えば立派な本官だが、仕事の方ではまだ一人前とは言えない。皆も鈴木君が早く一人前の本官になるよう指導してやってくれ。」と発言。「おめでとう、おめでとう。」と口々に祝福してくれる中に「仕事のできる奴が落ちて、役に立たない奴が合格か」と聞こえよがしに言う声も聞えました。何を言われようとこっちの肚は決っていますから少しも驚くことはありません。

(つづきは本誌をご覧ください。)