秋季詠
本誌「作品七句と自句自解」より
高木 良多
土運ぶ一輪車輌秋夕焼
天翔ける女神にも見え秋の虹 杉並・春日神社
お揃ひの村役人や秋祭
蟇目 良雨
へろへろの思ひ出もあり茸汁
美しく鰯を喰ふて褒めらるる
原色の赤は情熱若冲忌
鈴木大林子
妻を呼べば猫の応ふる良夜かな
祝詞上げ仙洞御所の松手入れ
柿落す手際鮮やか秩父の子
乾 佐知子
敗荷の風は角度を持ちにけり
中天を揺さぶり竹の伐られけり
鐘ばかり鳴りし踏切冬に入る
井水 貞子
美濃よりの栗菓子届く日和かな
さらさらと秋をこぼせり能登瓦
きつぱりと袱紗の音や初紅葉
井上 芳子
草の実や虹鱒釣りの舟の人
熊注意奥日光に初紅葉
松手入四代目棟梁喜寿の顔
花里 洋子
マドンナと名付く柑橘伊予小春
宝厳寺の昼の静けさ小鳥来る
大三島の楠の大樹や留守の宮
深川 知子
思惟深き菩薩を堂に松手入
夜仕事の向き合うて打つキーボード
秋草を透かせて百の置行燈
松谷 富彦
どの草も己が名を持つ花野かな
夜なべして早や朝刊のバイク音
朝市のお婆たくまし能登晩秋
石川 英子
懸巢句碑訪ふや先師が秋の声
蓮の実の飛ぶ日や白水阿弥陀堂
国宝の阿弥陀浄土や懸巣啼く
古郡 瑛子
小鳥くるやさしき日なり句碑除幕
ちちははの墓をめざして登高す
浜辺への道はひとすじ石蕗の花
堀越 純
夜業の灯鉄の骨組浮きあがる
父祖の地の夕かなかなの声に会ふ
蔦紅葉樹間に白き観世音
髙草 久枝
田仕舞の煙や信濃の千曲川
色変へぬ松や蒼々加賀の空
喪の家の庭にひと鉢雁来紅
(つづきは本誌をご覧ください。)