月刊俳誌「東京ふうが」平成27年秋季号通巻43号表紙

東京ふうが43号(平成27年秋季号)

東日本大震災を風化させない俳句力

松谷富彦

岩手、宮城、福島三県を中心に大災害を引き起こした東日本大震災(2011年3月11日)から間もなく5年の節目を迎える。仙台市の東方沖70kmの太平洋の海底を震源として発生した地震規模は、マグニチュード9。日本周辺では観測史上最大の地震となった。
地震にともなって発生した大津波も加わり、被災による死者の数は約1万9千人に達しただけでなく、福島第一原子力発電所の原子炉溶融の事故を誘発する最悪災害となり、被災地復興を妨げている。

四肢へ地震ただ轟轟と轟轟と 高野ムツオ

 俳句結社「小熊座」主宰の俳人、高野ムツオ氏は、地震があった3月11日午後2時46分、その時を書く。〈 私は仙台駅ビルの地下で、かつての教え子たちと食事をしながら歓談にふけっていました。突然、地の底からわき上がるような恐ろしい音に襲われ、思わず耳をふさぎました。同時に初めて経験する激しい揺れ。今度は、テーブルにしがみついて、やっとの思いで体を支えました。…このままビルが潰れ生き埋めになる。そう覚悟を決めてまもなく、なんとか地震は鎮まり始めたのでした。… 〉(『時代を生きた名句』NHK出版刊)

2年後、高野氏は震災の瞬間から1年余りの間に詠んだ多数の震災詠を含む第五句集『萬の翅』を上梓する。同句集は、第48回蛇笏賞を受賞、戦後生まれ初の同賞受賞者となった。震災詠から引く。

地震の闇百足となりて歩むべし
膨れ這い捲れ攫えり大津波
瓦礫みな人間のもの犬ふぐり
鬼哭とは人が泣くこと夜の梅
陽炎より手が出て握り飯掴む
みちのくの今年の桜すべて供花
犇めきて花の声なり死者の声
ヒロシマ・ナガサキそしてフクシマ花の闇
春天より我らが生みし放射能


(つづきは本誌をご覧ください。)