東京ふうが 30号(平成24年 夏季号)

澤木欣一の句集鑑賞

澤木欣一の句集鑑賞

『遍歴』渉猟

高木 良多

句集『遍歴』は澤木欣一の句集『二上挽歌』につづく第七句集で、昭和五十一年より昭和五十四年に至る四年間の集作である。

その句集の「あとがき」に「昭和四十七年夏、思いがけない持病にとりつかれ、それ以降薬餌を座右に置く身となった」とあるので、生命の危機感を覚えながら何事も早目早目の対応に迫られていたのであろうか。
第三句集の『地聲』は作成に十七年間を要していたのにくらべて大へんに短いからである。
また「あとがき」ではつづけて「未知の新しいものに触れたいと寸暇を惜しんで時空を彷徨し、漂っているような気持であり」と述べている。そのような心境のあらわれが四年目の「遍路」という行動となってくるのであるが、その遍路の「遍」と漂ってきている気持のあらわれとが重なり合って『遍歴』という名の題名が生れてきたのではなかろうかと私には思えるのである。

ひげの砂こぼし野老(ところ)を飾りけり   昭和五十一年

野老は自然薯科の多年生蔓草で、長い髭根を生ずるところから、老人の長寿にたとえて、蓬莱盆に載せ、新年の飾りに用いられている。
沢木家では新年とはいえ、大げさな飾りつけはしないが、玄関を入って、廊下をへだて襖を開け、すぐ左側に床の間があり、その床の間に松瀬青々の掛軸が掛けられてあったが、そのあたりに野老を盆に載せ、新年の飾りにしていたのであろう。
ひげの砂」と砂まで見ているところが欣一の句の特色によるところである。

(つづきは本誌をご覧ください。)