東京ふうが37号(平成26年 春季号)

「旅と俳句」2012夏 
中国雲南省徳欽県 梅里雪山の旅 3

8、上海へ移動 8月24日(金)晴

石川 英子

朝食の大食堂からの帰り、高級品の売店を覗き、ブランド朱印の入った磚茶を1枚買った。手焼煎餅状で嵩ばらずに価値がある。玉や貴金属は私には不向きだ。店のオーナーも日本人に親切で、よく冷えた大粒の黒葡萄を1房土産にくれて、買った磚茶と同じお茶を洩れてくれた。手間をかけて固めたお茶だ。
10時半、ホテル前の客待ちタクシーに乗った。タク氏「空港だって!?あそこは2時間の客待ちなんですよ、帰りの高速代も頂けますか。」
観光の為の車ではないので承諾したがよく喋る男だった。落語の「時そば」ではないが、うっかりしているとお調子者には引っかかる。
タク氏「旦那さんはここらの人じゃぁないでしょう。日本人ですか。言葉は上手だけど此処の言葉じゃないからわかりますよ。この辺りは北京の言葉とはだいぶ違うですよ。後ろのご老人も?ああ、お母さんですか。75歳だって?そうは見えませんなぁ。お元気でなによりですよ。今ねぇ、日中関係が色々問題あるでしょう、でもねぇ、昆明ではデモなんかありませんよ。反日デモをやってるのは、みんな80年代以降の生まれの連中ですよ。私らの年代はね、日本人といやぁなんたって高倉健、女なら山口百恵ですよ。なんでしたっけ、あのドラマ。山口百恵が白血病になっちゃって三浦友和が献身的に尽くしているのに、最後に死んじゃうってぇの。あれなんてったっけ(赤い疑惑の事か)。あれねぇ10代の頃に泣きながら見ましたよ。彼女は今幾つ?えっ、50過ぎましたか。高倉健は?へぇ、80代ですかぁ。高倉健、それと山口百恵、これを見て来た私ら世代てぇのはねぇどうも日本人は嫌いになれませんや。礼儀正しくて勤勉で、人を思いやるでしょう。ニュースで言ってる事とつながりませんや。お客さん、あれが空港の鉄道駅なんですよ。いやぁ、あれが出来てから商売はさっぱりですよ。おっと、ここで高速代10元だ。さぁお客さん、着きました。帰りの高速代もようござんすかね、へへへ。そいつはどうも。空港の玄関前は大混雑で車がつけられませんやカートを取って来てくれますか、お荷物は私が積みますよ。忘れ物はありませんか?じゃあ、道中ご無事で。」

(つづきは本誌をご覧ください。)