東京ふうが51号(平成29年秋季号)

秋季詠

本誌「作品七句と自句自解」より


蟇目良雨

啄木鳥や紙に食ひ込む烏口
山粧ふ奥嶺は白き寂光土
黙契として朝顔の蜜を吸ふ

鈴木大林子

墓碑銘に元和元年草の花
石あらば石に腰掛け十三夜
阿夫利嶺に連なる山も粧へり

乾 佐知子

空つぽとなりし母屋や虫すだく
鵙高音空深ぶかと透きにけり
千代紙の張らる襖や一葉忌

井水 貞子

庭先の垣に零余子のもみづれり
裏木戸に聞くはなしに秋の声
雨後の道べたり貼りつく桐落葉

深川 知子

新走りおとうといよよ父に似て
出来秋や棚田一枚ごと名札
箒目の露に尾を引く宮の鶏

松谷 富彦

一葉の旧居の井戸や鳳仙花
たわみつつ塒に向かふ鶸の帯
奥山の静寂を穿つけらつつき

井上 芳子

菊正の樽に沢庵秋の雲
秋晴れや井戸蓋に二羽鶏のゐて
秋澄みて集合写真の笑顔かな

石川 英子

高麗郷に陛下の行幸曼珠沙華
秋麗王(こきし)の廟や帰化の郷 (高句麗若光王)
秋天へアリラン唄ふ獅子祭

花里 洋子

行く秋のきらめく塩湖砂日和  (シルクロード三句)
車窓打つトルファンの砂冬近し
鳴砂山の砂の声きく夜寒かな

堀越 純

稜々と石門いだき山粧ふ
菊坂に疲れのみゆる秋簾
ドラミング響く暁橅のけら

古郡 瑛子

木綿注連を掛けて足湯や山粧ふ
あるがままに生きるたのしさ敬老日
秋日澄む質蔵にある明治の香

髙草 久枝

草の花湯屋の名残りの鬼瓦
琴の音に小督偲ばむ今日の月
篠笛に誘はれ月の出でにけり

荒木 静雄

秋めきて独りシャンソン口ずさむ
山粧ふ三原色の色の侭
別れゆく緑労ひ山粧ふ

河村 綾子

菊坂の煎り豆の香に秋惜しむ
一葉のくぐりし木戸や曼珠沙華
文人の寄り来し本郷秋の雲

春木 征子

半世紀余尾根守る男御巣鷹忌
岳麓に風龍這ふや芒原
襖絵の龍の夫婦や寺小春

大多喜まさみ

野分中憲法守る投票へ
浜辺にて小枝を拾ふ雁渡し
海老色の朝顔多し鬼子母神

島村 若子

威嚇しても枯蟷螂は独り法師
散散な姿になりて尚鶏頭
秋の斜塔螺階の上の夕日かな


(つづきは本誌をご覧ください。)