東京ふうが64号(令和3年冬季・新春号)

秋季詠

本誌「作品七句と自句自解」より


蟇目良雨

日が差して清拭日和小六月
山妻は眠りひとりの晦日蕎麦
文机に一輪挿して寝正月


乾 佐知子

寒紅やうつすら残る指輪あと
冬の鵙父のひと言忘れまじ
冬夕焼紙芝居屋の連太鼓


深川 知子

葱を抜く離宮の跡の小高きに
晦日蕎麦茹づ一握を泳がせて
志ん朝の芝浜流し寝正月


松谷 富彦

けたたましケトルの笛や憂国忌
菰巻いて威風加はる松大樹
断捨離の完了したる冬木立


古郡 瑛子

留守電に声うつくしき御慶かな
寝正月せめて枕の新しく
菊坂の井戸の冬立つ匂ひかな


堀越 純

初春の湯殿にぎはふ祖母の家
寒晴やものみな硬き影みせて
凍蝶の影の薄さを引きずれり


小田絵津子

割烹着外せぬままに晦日蕎麦
生涯の友は夫とも老の春
島小春客にも漕がす盥舟


本郷 民男

紙垂作る鞴祭の機関長
耳元の鋏さくさく冬ぬくし
寒晴や江戸には多き冨士見坂


高草 久枝

撫牛のひかる喉輪や初御空
寒晴や九十四才の母笑ふ
積み上げてからびん鳴らす空つ風


河村 綾子

山麓の冬の大地や香の豊か
冬の蝶しばし動かず丹の柱
とつぷりと暮るる駅前葱畑


荒木 静雄

ウィルスと人の闘ひ去年今年
初詣神社を避けて一万歩
元日の空に満月白々と


島村 若子

動物園子象の生まる冬うらら
冬夕焼もめん豆腐を買ひに出て
村に一つのスーパーに人寒日和


大多喜まさみ

一葉忌日本堤を人力車
鷽替や一刀彫の潔し
泥葱の束を背負ひてペダル漕ぐ


野村 雅子

時雨忌や水美しき結びの地
山並を茜に染めて冬落暉
さめざめと柊の花香を零す


(つづきは本誌をご覧ください。)