東京ふうが 24号(平成23年 冬季・新年号)

新年・冬季詠

季節の三句/新年・冬季詠

本誌「作品七句と自句自解」より

高木 良多
時雨るるや家鴨のこゑのけたたまし
十一月土留めの杭の真新し
人日をすたすた行けり鳶頭

蟇目 良雨
冬ざくら揺するよ風の又三郎
顔見世のまねきを恍と見上げけり
冬の雷むかしは母によく擲たれ

荻原 芳堂
石蕗の咲く崖より海の広がれり
振り返る顔昏れてをり蓮根掘
初夢の覚めて手のひら湿りゐる

鈴木大林子
宿坊に十一月の雨の音
大鷹の雲低くければ低く翔ぶ
熊除けのラッパ鳴らして保線工

井上 芳子
初明り夜通し列車の音すなり
じゃんけんの決着つかず初笑
掃き寄する豆の多さよ冬送る

長沼 史子
染め直す母の着物や小六月
冬ざれの大社の杜に鶏の声
拍子木に秩父夜祭り昂れり

乾 佐知子
牛売ってけんちん汁を囲みけり
樺の木に熊の爪跡峡晴るる
団栗や地蔵の碗に二つ三つ

積田 太郎
凍てゆけば鰤の粗煮に運ぶ箸
鳴くことを忘る砂場の寒雀
真先に猫坐りけり畳替

石川 英子
ヒマラヤの碧き氷河の淑気かな
初空へ鷲の輪を画く葬り山
御神渡り間近かに騒ぐ明け鴉

花里 洋子
午後の日に透けるはなやぎ冬桜
数え日の仲見世に買ふポチ袋
煤逃げの碁敵来るや妻の留守

深川知子
年の火の周りの闇の動きそむ
遺されしひとりに響く除夜の鐘
初夢の父に煙草の匂ひかな

元石 一雄
岩桔梗その一輪をいとほしむ
秋澄むや天海の富士近寄りて
中天に月かけてこそ夏穂高かな

(つづきは本誌をご覧ください。)