春季詠
季節の三句/春季詠
本誌「作品七句と自句自解」より
高木 良多
(神田川のほとりでM9の地震に遭ふ)
天変の音おそろしや落椿
風来れば羽博く形や花辛夷
園丁の立ち居しづかや丁字の香
蟇目 良雨
しもつかれ雨はみぞれに変りけり
ちらちらと日矢さす越の農具市
其角忌や白もて応ふゆりかもめ
荻原 芳堂
啓蟄の土塊鍬の背で砕く
篁に鳥のこゑ澄む木の芽時
汐まねき巨き鋏を持て余す
鈴木大林子
立春大吉鉱泉宿に兜太の書
春雷の二の矢は継がず去りにけり
侘助の一輪で足る奥座敷
井上 芳子
姉妹校の無事祈る日々三月尽く(田老中学)
春合宿楽器破壊され戻る(福島)
慰霊祭中止の葉書仏生会(パラオ)
乾 佐知子
啓蟄の畑に菜屑を鋤き込めり
蟇出てとろりと闇の動きけり
春雷やもろみの眠る仕込蔵
積田 太郎
春一番南大門を潜りぬけ
ご貫主が呼上ぐ稚児の名花祭
野遊や明日香に多き石仏
石川 英子
春日傘孔子の像へたたみけり
釈奠や雀こぼるる楷の巨樹
「ふるさと」の唱歌聞きゐる暮の春
花里 洋子
図書館の手すりの木目春浅し
末黒野に一筋光る川面かな
春火鉢灰ならしつつ民話果つ
深川 知子
雛の間に命名の書の新しき
野焼の香纏ひて座する写経堂
黄砂降る卑弥呼住まひし地と伝へ
太田 幸子
黄昏の業平塚や蘖ゆる
巣立鳥翔ちて裏山賑やかし
春暁や読経の漏れる壇那寺
(つづきは本誌をご覧ください。)