東京ふうが 31号(平成24年 秋季号)

澤木欣一の句集鑑賞

澤木欣一の句集鑑賞

『往還』寸描

高木 良多

澤木欣一の句集『往還』は句集『遍歴』につづく句集で、昭和55年より昭和57年に至るほぼ4年間の句集である。
句集『地聲』がほぼ12年間を要していたのにくらべ4分の1の短期間である。
俳句作成概念を変えようとしているのであろうか。著者はその「あとがき」でつぎのように述べている。

ものの見方が徐々に明るくなったような気がする。小さな自己を離れたいという志向が増し、自然や人間の万相をありのままに見たいと念願するようになった。さりげない、今迄見落していたような事相のなかに「俳」を見い出してゆきたい。人生を旅と感じ、往来する沿道の風景をつぶさに眺めてゆきたいという心から、「往還」という題名をつけた。この句集の内容が少しばかり俳諧の「俳」に近づいて来ておれば幸いこの上ないことである。

またこの句集に文藝評論家の山本健吉氏が帯文でつぎのように述べている。

 自然と人界とを往還して「俳」を見出したいとの作者の祈念が、ようやく実を結ぼうとする端緒が見えて来て、この集の句々に、ほの明りと生彩とを添えている。

残る鴨羽打ち止まざる水しぶき   昭和五十五年

年譜に「3月30日、練馬区石神井公園三宝寺池で開かれた城北句会発足三周年記念大会に出席。」とある。
「城北句会」は富田直治の指導する句会で、このとき「石神井、三宝寺池」と前書きして、7句を作っている。
「残る鴨」が春の鴨の季語で、三宝寺池に浮かぶ「残る鴨」の一物仕立て。「羽打ち止まざる水しぶき」で「残る鴨」の生態が描写されている。
「乗込鮒枯葉藻屑をかきわけて」も同時作。

(つづきは本誌をご覧ください。)