東京ふうが48号/平成29年冬季新年号表紙絵「良多先生追悼号」

東京ふうが48号(平成28年冬季・新年号)

冬季・新年詠

本誌「作品七句と自句自解」より


高木 良多

たあい無く鉄柵くぐる冬の蝶
駅前に寒行僧の佇てりけり
皿に盛り縞美しや冬林檎
実万両硝子の花器に挿しにけり
   ふるさとの旧家を想起して
餅焼くや火鉢を囲み兄いもと
新春や目抜き通りに塵も無し
   久我山東原公園
並び佇つ冬木の影の美しき

[ 自句自解 ]

並び佇つ冬木の影の美しき   良 多

公園の南側に二本の冬木が佇っている。その冬木に夕日が射してきたのでその二本の冬木の影が地上に佇ってきた。冬木ですので葉を落ちつくし、影もまた二本。その影が美しいと詠んだのである。
二本の冬木の姿は美しいのであるが影もまた美しいと詠んだのである。

(杉並区立久我山東原公園での作。)

蟇目 良雨

年の瀬の裏庭に星溢れゐる
渡良瀬の鉄橋泣けり年の暮
妻が乗り波立ちにけり寶舟

鈴木大林子

千鳥啼く七里ケ浜の遭難碑
づかづかと踏み込んで来し風邪の神
一湾に一舟もなき初明り

乾 佐知子

年用意棚よりそつと神おろす
煮くづれるポトフの野菜寒波来る
的射ぬく白矢一閃淑気満つ

井水 貞子

猪鍋やまだ吊されし縄のあり
綿虫や風しむ日なり波郷の墓
寒波くる出作小屋の南京錠

深川 知子

書初や畳敷なる天守閣
姫のごと籠に揺らるる良寛忌
決闘の島は平らか千鳥啼く

松谷 富彦

足を抜きまた足を抜き蓮根掘り
あばら骨出して武甲の山眠る
打たれても頑と立ちをり成木責

井上 芳子

貸切りの講道館の新年会
鷽替や飛び去りとして完売す
福寿草手編みソックス編みためて

石川 英子

初夢や神のお告げを伏し拝む
八咫烏塒の大椰寒夕焼
寒禽や権現様の黒ポスト

花里 洋子

放ち鶏ねぐらに入れて大晦日
ひと文字の墨痕おどる賀状かな
もろもろの縁結ぶ絵馬春を待つ

堀越 純

雲割れて水仙の影生まれたる
大寒や街早暁の湯掛け祭
利休梅はや一輪の白ほぐす

古郡 瑛子

牡丹鍋父はおほきく座りたる
陶器店に花の歳時記春を待つ
玉子焼うまし築地の年暮るる

髙草 久枝

初詣龍王池の主出でよ
亡き友の好みしなかの福寿草
どんど火を頒ち汁粉の匂ひかな

荒木 静雄

寺町の坂に青空青蜜柑
しし鍋を囲む亥年の同期生
亡き母の姿重なるペチカの火

河村 綾子

大年のドームに若き人の波
年越し蕎麦ひとり身揃ふ二階席
ありつたけの日差し集めて冬すみれ


(つづきは本誌をご覧ください。)