秋季詠
本誌「作品七句と自句自解」より
素十忌を天然の風吹きわたり
色変へぬ松や世継ぎの式つづく
木賊刈り心の錆を落としけり
湖北には仏門多し柿を剥く
山頭花ぬつと出さうな芒原
先頭は誰とも知れず大花野
母がよく坐りし石や草紅葉
余生なほ燃ゆるもの慾し鶏頭花
夕花野馬柵にジーパン乾きをり
兄ちやんは僕のヒーロー今日の菊
一体は顔無き地蔵昼の虫
落し水能登残照の海に落つ
子らはみな過疎の村去り草田男忌
祖谷の里峪深くして星走る
白南風や窓全開の海女の小屋
神木の楠ふたかかへ小鳥来る
色かへぬ松のかなたの塔高し
復元の縄文住居秋日和
秋惜しむ農学校の時計台
綿の実吹く北の平野の夕風に
秋燕小樽運河の船遊び
花野より戻りて知りし父の怪我
山荘の薪あたらしき白露かな
アルバムの思ひ出ほどく終戦日
船宿の潮焼しるき秋すだれ
下馬札もちちろの声も暮れにけり
おしろいの咲きて最高学府裏
いたはりの言葉をかけて水落とす
あやとりの鉄橋崩れ秋出水
朝寒や青虫蔓にしがみつく
百年の松の迫り出す水の秋
嵐過ぎ後の芒穂みずみずし
山の夜の木々の吐息の白露かな
十歳の記憶を辿る終戦日
重陽や苦の重なりも吉とせむ
妻逝きてあつといふ間の彼岸花
気に止めぬ土用鰻の日なりけり
露座仏の膝に籠れる残暑かな
園児らの讃美歌きこゆ蔦紅葉
色変へぬ松の影置く観世音
盃満たす新酒を父に供へをり
銀漢のいづくにいます父と母
風に添ひ水に順ひ蓮枯るる
湯湯婆てふ舟につかまり夢に入る
ひたひたに切干し浸し写経終ふ
お十夜の如来の指と縁結び
大雨も台風も耐へ棉吹きぬ
冬近し厚手くつ下かがりをく
自転車の翁ふらふら秋灯し
金貨もて土地覆ふごと銀杏散る
新走りことに神田の下り酒
夕映えに茜尽くして蔦紅葉
ふくよかなみほとけの耳朶露光る
おがたまの木の実賜る鎌倉宮
影つれて影と遊べる月夜かな
秋澄むや根付の小鈴音清し
ブランドのあふるる銀座空は秋