東京ふうが71号(令和4年秋季号)

素十俳句鑑賞 百句 (10)

蟇目良雨

(71)
ある寺の障子ほそめに花御堂
昭和3年

 釈迦誕生を祝う花御堂のある寺の障子が、細めに開けられてあった光景。未だ御披露目されていなくて本堂に安置されているのを障子の隙間から覗いたという鑑賞もあるが、その日は雨風が強く、障子を締め切ると参詣の人が気付かない惧れがあるので見えるように細めに開けて置いたという鑑賞もあると思う。「ある寺」とはそんな気象現象の中の寺をさすのではなかろうか。

(72)
ゆれ合へる甘茶の杓をとりにけり
昭和7年

 灌仏会でお釈迦様にかける甘茶の杓が、豊かに張られた甘茶の桶に揺れていた光景を描いたもの。杓が揺れ合っているほどの数あることが分かる。大きな灌仏会の光景を思わせるに十分である。同時作
寛永寺甘茶の杓の揺れ合へる
から、寛永寺の灌仏会であることが分かる。


(73)
親馬は梳らるる仔馬跳び
昭和11年

 毛繕いされている親馬のそばで仔馬が飛び跳ねている。毛繕いは競りに出す時など稀に行われるものだ。ここでは仔馬の出産を無事に終えた親馬へのいたわりから行われたものか。そうすると、仔馬は産後間もなくで覚束ない足どりで跳びはね始めたばかりと想像できる。


(つづきは本誌をご覧ください。)