東京ふうが 令和2年冬季・新年号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報417回〜418回より選
茶筅干す生駒颪に傘広げ 深川知子
茶筅作りの産地の光景。細い竹筒を十センチくらいにカットし一方にこまかい切り込みを入れ外側に折り曲げると唐傘のおちょこの骨組みに似た様子になる。作者はこれを傘広げと見做して一句を楽しんでいる。
湯畑に硫黄の匂ひ冬銀河 堀越純
単純明快な句。硫黄の匂いのする湯畑に立ち冬の銀河を仰ぎ見ている光景。温泉の湯けむりも凍てつくような寒さの上に冬銀河が煌々と輝いて見える。
等伯の墨の濃淡雪催 野村雅子
長谷川等伯六曲一双「松林図屏風」を見ての句と思う。消え入りそうな靄籠めの中の松林を墨絵にしたためた屏風の墨の濃淡を見ているうちに雪催を思い出したのは、能登の出身の等伯と同じ光景を作者も経験したことがあるせいかも知れない。等伯は子の久蔵を亡くした悲しみの消えぬうちにこれを描いたといわれ、まさに鎮魂の静けさに包まれた絵になっている。
寒の星軍艦島の潰え見せ 松坂康夫
厳しい冬の夜の景色だ。寒の星明りのもとに浮き上がる軍艦島の輪郭のどこかに潰えが見えていることで大自然の下の歴史の移ろいが感じられる。