令和3年冬季・新年号 佳句短評

東京ふうが 令和3年冬季・新春号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報442回〜444回より選

くづるるは吾が心かも霜柱 小田絵津子

霜柱がだんだん溶けて崩れゆくさまをみて不図おのが身を省みれば、心萎えている自分に気付いたという内容である。作者の心が悲しみに崩れているのは最愛のご主人を亡くされたから。静かな詠いぶりでご主人を悼んでいる。

禁断の密の楽しさ焼鳥屋  野村雅子

「禁断の蜜」と読み間違える面白さがこの句にはある。蜜ではなく密も平時なら容易に手に入るものであるが新型コロナウイルス禍の状況では禁止されたも同様である。そんな中で焼鳥屋の煙まみれのざわついた密に身を置いた喜びを表した。ささやかな禁断破りの喜び。

初燈あげたかと問ふ父の声  河村綾子

元朝に神仏に灯明を上げることを初燈という。起きてすぐ父から「初燈あげたか」と声がかかったのだが、家長の父がするべきことを頼まれることは父が臥せっているのかも知れない。在りし日の一こまであろう。