『ここから』は私の69歳から76歳までの8年間の作品集である。
この頃の私は、皆川盤水先生がお亡くなりになった後の「春耕」誌での追悼特集、盤水先生遺句集『凌雲』、脚注名句シリーズ『皆川盤水集』の編集、更には、『皆川盤水全句集』の編集や刊行に携わり「春耕」編集長として寧日のない日々を送っていた。
一方、私の妻は八歳年長なので晩年を迎えてパーキンソン病が進み難病指定の体になっていた。嘗て
妻泣くな夏至のお茶の水橋の上
と詠んだが、病気の進行が愈々厳しい段階に入っていたのである。
<中略>
「ここから」には変わらなければならない自分への叱咤激励の意味も込められている。句作りの際に写生の中に忬情を含ませることに心を砕いたがどれほど成功したか覚束ない。「ここから」もっと変わらなければならないと本句集をひも解いて改めて思った。
-あとがきより-
自選十句
風花はことば一片づつ光り
薄氷に水乗り上がり乗りあがり
白玉や雨は斜めに神楽坂
吸うて吐く闇美しや青葉木菟
はじまりとをはりを淡く流れ星
ここまでが看取りここからがわが夜長
金剛の水一滴や初硯
御汁粉の蓋濡れてゐる春の雪
羅を風のごとくに着て過ごす
成人の日や遙かなる山の照り
価 格 2800円(税抜き)
発 行 2023年6月15日
著 者 蟇目良雨
発行所 株式会社 文學の森
ISBN978-4-86737-159-6