冬季・新年詠
本誌「作品七句と自句自解」より
蟇目良雨
浮寝鳥見る東京に流れ着き
歌留多よむ母や昔のこゑ出して
双六や鰥夫となりて振出しに
乾 佐知子
小雪ふる根付の鈴を振るやうに
花芒風に夕日をこぼしけり
背に受くる子の雪礫やはらかし
深川 知子
焼鳥や一夜の旅の荷を背なに
ニコライの鐘や淑気の駿河台
ひとつ家に表札三つ鳥総松
松谷 富彦
朝市に瞳揃へし潤目かな
蕪村忌や雪降る飛騨の濁り酒
しゅーるりと風呼ぶ岬野水仙
田中 里香
白鳥の群れたる水の昏さかな
十人と二匹てんでに初写真
葱提げて妻らしき顔取り戻す
古郡 瑛子
霜枯の小菊母の忌めぐりくる
去るものは追はず冬日淡き駅
焼鳥のうまし別れの酒かなし
本郷 民男
枯葉舞ふ庭に婚礼写真かな
柳生流とぞお見受す枯蟷螂
角巻のてんでに坐る渡し舟
野村 雅子
松林図屛風に能登の風の音
深窓の令嬢は死語室の花
藪柑子なにやら人目忍ぶかに
高橋 栄
卓袱台に親子六人福寿草
質物は嫁荷の着物餅を搗く
万太郎の句入りの袋切山椒
島村 若子
女子寮の花柊で囲まるる
雪吊りのさらに大樹となりにけり
初電車どどつと御茶ノ水で降る
弾塚 直子
待つことと夢見ることと冬木の芽
缶詰を二三開けわが忘年会
賽銭を探る手先の寒さかな
伊藤 一花
焼鳥の親父黙つて串まはす
初鴉すこし胸はる神社道
凍解やキェルケゴールの国に住む
鈴木 さつき
家路迷ふ翁に付きぬ冬の月
美人画のやうに猫伸び日脚伸ぶ
焼き鳥の炭火静かな赤である
(つづきは本誌をご覧ください。)