東京ふうが80号(令和7年冬季・新年号)

韓国俳句話あれこれ 25

本郷民男

▲ 句集『朝鮮』の夏季より

 京城で昭和5年に発行された句集『朝鮮』の後半です
 
銅鑼どらの音も遠くなり行く夏の月  北川一水
夜に入りて降る温度や夏の月   西村秋芳子
隣る湯も湯の音ばかり夏の月   河淵天嵐
水車みづくるま踏みつゝ仰ぐ雲の峰    内田一笠
嶋の杜に亦崩れ涌く雲の峰    上原不二郎
虹の橋心渡るや日本海      有馬三洲
尼寺のキネマ雑誌や風薫る    工藤渓水
風薫る母校は森の彼方哉     渡瀬粗砥子
 
 銅鑼というと、ムーダンという巫女さんを想像します。祈祷師で高齢の人も多いです。銅鑼や鈴を鳴らしながら、派手な衣装で踊ります。水車は踏車とも言って、水路より高い水田へ人力で給水します。日本海に掛かる虹の橋に、望郷の気持ちを抱いています。韓国では日本海ではなく、東海トンヘと呼びます。韓国の海でもあり、独占するなと。若い尼さんが映画の雑誌を見ている、確かに初夏の感じです。
 

▲  夏の続き

 
夕立のけろりと晴し牛蒡の葉    藤田角丸
夕立や下駄ぬぎ捨てて走る児等    藤森小富士
夕立の晴れ間の渡しわたりたり   天野一星
苔清水冠の紐ぬらし飲む      植田紅村
瀧の面ふくらみ来たり落ちにけり  近藤葦城
帰り来て一桶浴びたる暑さ哉    関本吉茶
岩窟の羅漢の顔や朝涼し      泉 延流
 
 韓国にもゴボウがあって、同じ漢字を使いウオンと発音します。韓国の海苔巻きは、かんぴょうの代わりにゴボウが主役です。下駄はなくて、日本人がいた時代だけ使われました。瀧の句は〽滝の上に水現れて落ちにけり 後藤夜半〉を思わせます。韓国の夏の暑さは日本と同じようで、昔なら桶の水、今ならシャワーで汗を流します。漢字の桶を「トン」と読み、樽や缶でもトンと呼びます。今のトンはプラスティック製で、私はトンで若水をもらいに行ったり、梅干を漬けたりしました。


(つづきは本誌をご覧ください。)