蟇目良雨講評
東京ふうが 平成29年冬季・新年号「墨痕三滴」より
遥かなる世から吹きくる波の花 島村若子
栄養分の濃い海水が波に揉まれると泡立ち、それが風に吹かれて飛び取ったものが波の花。こう言ってしまえば説明。遥かなる国から吹かれてくると思えば詩になる。
栄養分の濃い海水が波に揉まれると泡立ち、それが風に吹かれて飛び取ったものが波の花。こう言ってしまえば説明。遥かなる国から吹かれてくると思えば詩になる。
まさに女性の俳句。自分の城は厨だと宣言している。身の丈に合った新年の覚悟が説得力を持つ。
『ここから』は私の69歳から76歳までの8年間の作品集である。
この頃の私は、皆川盤水先生がお亡くなりになった後の「春耕」誌での追悼特集、盤水先生遺句集『凌雲』、脚注名句シリーズ『皆川盤水集』の編集、更には、『皆川盤水全句集』の編集や刊行に携わり「春耕」編集長として寧日のない日々を送っていた。
一方、私の妻は八歳年長なので晩年を迎えてパーキンソン病が進み難病指定の体になっていた。嘗て
妻泣くな夏至のお茶の水橋の上
と詠んだが、病気の進行が愈々厳しい段階に入っていたのである。
<中略>
「ここから」には変わらなければならない自分への叱咤激励の意味も込められている。句作りの際に写生の中に忬情を含ませることに心を砕いたがどれほど成功したか覚束ない。「ここから」もっと変わらなければならないと本句集をひも解いて改めて思った。
-あとがきより-
風花はことば一片づつ光り
薄氷に水乗り上がり乗りあがり
白玉や雨は斜めに神楽坂
吸うて吐く闇美しや青葉木菟
はじまりとをはりを淡く流れ星
ここまでが看取りここからがわが夜長
金剛の水一滴や初硯
御汁粉の蓋濡れてゐる春の雪
羅を風のごとくに着て過ごす
成人の日や遙かなる山の照り
価 格 2800円(税抜き)
発 行 2023年6月15日
著 者 蟇目良雨
発行所 株式会社 文學の森
ISBN978-4-86737-159-6
蟇目良雨の第四句集
著者62歳から69歳までの8年間の作品を所収。
「九曲は幾曲がりする、九十九折れという意味であるが中国の大河である黄河のことも言う。折々中国に旅して、雄大な流れに心を癒されたことから名付けたものである。」 -あとがきより
柴の戸に待春の鳥いくたびも
臘梅や曾良は丹心つくしけり
安心といふさながらに落椿
芭蕉より蕪村の皃で花見かな
そら豆のつるんと飛んで五月場所
東京をびしょ濡れにして桜桃忌
そもそもは並んで卯波見しことに
吊つてある手水手拭金魚玉
鯔とんで秋をななめによぎりけり
十月の蝿いきいきと湯殿山
煤逃げのとぼとぼホロホロ鳥と歩く
古書街に立ち飲みをして年忘れ
現代俳句作家シリーズ耀5
価 格 2800円
発 行 2020年4月1日
著 者 蟇目良雨
発行所 株式会社 東京四季出版
印刷所 株式会社 シナノ
装 幀 髙林昭太
ISBN978-4-8129-0961-4