「俳句鑑賞「墨痕三滴」」カテゴリーアーカイブ

線下地も住めば都や枯木星

蟇目良雨講評
東京ふうが 平成29年冬季・新年号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報393回〜395回より選

線下地も住めば都や枯木星  鈴木大林子

線下地とは珍しい呼称だ。高圧電線の下は危険と隣り合わせのために住むことが憚れるが、安全を確認した上で住む場合がある。線下地と言えど住めば都と思う作者の大らかさがいい。枯木星も遮るものが無くよく見える。


奈良町に迷ふも愉し鳥総松

蟇目良雨講評
東京ふうが 平成29年冬季・新年号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報393回〜395回より選

奈良町に迷ふも愉し鳥総松   深川知子

古い奈良の町の風情を今に残しているのが元興寺の周辺。町家のそれぞれに個性がある。作者は奈良の人だが奈良町に来て迷いながら町歩きを続ける。ここには地べたが残っているのだ。


伊達巻に割るや九個の寒卵

蟇目良雨講評
東京ふうが 平成29年冬季・新年号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報393回〜395回より選

伊達巻に割るや九個の寒卵   井上芳子

伊達巻は三個ほどの卵と繋ぎにはんぺんなどを使うので掲句の場合三本分の材料になろうか。大家族であることが想像される。数字の九は「寒九」の九に通じ季節感がより具体的になった。


遥かなる世から吹きくる波の花

蟇目良雨講評
東京ふうが 平成29年冬季・新年号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報393回〜395回より選

遥かなる世から吹きくる波の花  島村若子

栄養分の濃い海水が波に揉まれると泡立ち、それが風に吹かれて飛び取ったものが波の花。こう言ってしまえば説明。遥かなる国から吹かれてくると思えば詩になる。


女子会も共謀罪か秋の暮

蟇目良雨講評
東京ふうが 平成29年秋季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報390回〜392回より選

女子会も共謀罪か秋の暮  大多喜まさみ

現代の政治を軽妙に描いているが、いつの時代も初めは軽いことが気が付いてみれば大変なことになってきた。女性が何人か集まって「女子会」で世間話に花を咲かせている。が見方によっては出来たばかりの共謀罪の対象にならないか心配しているのだ。


鳴砂山の砂の声きく夜寒かな

蟇目良雨講評
東京ふうが 平成29年秋季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報390回〜392回より選

鳴砂山の砂の声きく夜寒かな  花里洋子

鳴砂山(中国では鳴沙山)は敦煌にある。砂山の天辺が風に吹かれて鳴くことから名付けられた。敦煌を訪れたここに宿泊したことで得られた句。古人が多く西域の防衛に駆り出されて此の辺りに来て故郷を偲んで泣いた故事を作者は思いだしているのだろう。


黙契として朝顔の蜜を吸ふ

蟇目良雨講評
東京ふうが 平成29年夏季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報390回〜392回より選

黙契として朝顔の蜜を吸ふ  蟇目良雨

黙契はおどろしい言葉だが、幼子が二人だけの秘密として朝顔の蜜を吸っている光景が思い浮かぶ。「二人だけの秘密よ・・・」「また、明日もね」といったところか。


たまきはるいのちひと日や花さぼてん

蟇目良雨講評
東京ふうが 平成29年夏季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報387回〜389回より選

たまきはるいのちひと日や花さぼてん  松谷富彦

咲き誇る花の命が一日のみの仙人掌の花であることよという句意。月下美人に代表される仙人掌の花の儚さを詠った。


行基葺までは届かず夏の蝶

蟇目良雨講評
東京ふうが 平成29年夏季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報387回〜389回より選

行基葺までは届かず夏の蝶  深川知子

夏蝶の行方を眺めていたら行基の葺いた瓦屋根までは届かずに飛び去って行ったと言っている。ここで行基葺とは行基が指導して葺かせた屋根瓦のこと。元興寺のそれが有名。夏蝶の高くは飛ばないことを具象化した。