蟇目良雨講評
東京ふうが 平成29年冬季・新年号「墨痕三滴」より
線下地も住めば都や枯木星 鈴木大林子
線下地とは珍しい呼称だ。高圧電線の下は危険と隣り合わせのために住むことが憚れるが、安全を確認した上で住む場合がある。線下地と言えど住めば都と思う作者の大らかさがいい。枯木星も遮るものが無くよく見える。
線下地とは珍しい呼称だ。高圧電線の下は危険と隣り合わせのために住むことが憚れるが、安全を確認した上で住む場合がある。線下地と言えど住めば都と思う作者の大らかさがいい。枯木星も遮るものが無くよく見える。
古い奈良の町の風情を今に残しているのが元興寺の周辺。町家のそれぞれに個性がある。作者は奈良の人だが奈良町に来て迷いながら町歩きを続ける。ここには地べたが残っているのだ。
伊達巻は三個ほどの卵と繋ぎにはんぺんなどを使うので掲句の場合三本分の材料になろうか。大家族であることが想像される。数字の九は「寒九」の九に通じ季節感がより具体的になった。
栄養分の濃い海水が波に揉まれると泡立ち、それが風に吹かれて飛び取ったものが波の花。こう言ってしまえば説明。遥かなる国から吹かれてくると思えば詩になる。
まさに女性の俳句。自分の城は厨だと宣言している。身の丈に合った新年の覚悟が説得力を持つ。
現代の政治を軽妙に描いているが、いつの時代も初めは軽いことが気が付いてみれば大変なことになってきた。女性が何人か集まって「女子会」で世間話に花を咲かせている。が見方によっては出来たばかりの共謀罪の対象にならないか心配しているのだ。
鳴砂山(中国では鳴沙山)は敦煌にある。砂山の天辺が風に吹かれて鳴くことから名付けられた。敦煌を訪れたここに宿泊したことで得られた句。古人が多く西域の防衛に駆り出されて此の辺りに来て故郷を偲んで泣いた故事を作者は思いだしているのだろう。
黙契はおどろしい言葉だが、幼子が二人だけの秘密として朝顔の蜜を吸っている光景が思い浮かぶ。「二人だけの秘密よ・・・」「また、明日もね」といったところか。
咲き誇る花の命が一日のみの仙人掌の花であることよという句意。月下美人に代表される仙人掌の花の儚さを詠った。
夏蝶の行方を眺めていたら行基の葺いた瓦屋根までは届かずに飛び去って行ったと言っている。ここで行基葺とは行基が指導して葺かせた屋根瓦のこと。元興寺のそれが有名。夏蝶の高くは飛ばないことを具象化した。