「井上芳子」タグアーカイブ

桜貝軍艦島が沖に見ゆ

蟇目良雨講評
東京ふうが 平成29年春季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報384回〜386回より選

桜貝軍艦島が沖に見ゆ  井上芳子

桜貝は穏やかな波の寄せる海浜を生息場所にしている。したがって桜貝の採れる海岸の様子は自ずから想像できる。掲句は穏やかな波の寄せては返す砂浜の対岸に突然軍艦島が見えたと驚いているのだ。長崎県の軍艦島を思い出すが作者によれば南洋の光景らしい。南洋に出兵した父の戦友を弔う慰霊の旅に参加した作者ならではの視点かもしれない。


シドッチや釣瓶落しの牢屋敷

蟇目良雨講評
東京ふうが 平成28年秋季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報378回〜380回より選

シドッチや釣瓶落しの牢屋敷  芳子

いつも類想を避けた句を提示して我々を楽しませてくれる。シドッチは禁教令により茗荷谷のキリシタン屋敷に収監されたイタリア人司祭。新井白石と知り合い影響を与えた。数年間の幽閉の後、地下牢で獄死。作者はその死を悼んでいる。「釣瓶落し」に歴史の流れの速さ、無情さが表現されている。


夏服の女子学生や鑑真廟

高木良多講評
東京ふうが 平成25年 秋季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報340号~343号より選

夏服の女子学生や鑑真廟 井上芳子

鑑真は唐の学僧で日本律宗の祖。七五三年に来日のときの暴風のために失明したが聖武上皇以下に授戒、のち唐招提寺を建立・鑑真廟に祀られている。今日はセーラー服の女子学生が大ぜい見えている。
鑑真廟と夏服の女子学生の対象が鮮やかに描かれていて良い。


親子して探し物あり柿若葉

高木良多講評
東京ふうが 平成23年 夏季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報313号~315号より選

親子して探し物あり柿若葉 井上芳子

親が何かを探している。子の私もまた別の物を探している。そのような上五、中七の別々のことを結びつけているのは下五の柿若葉の季語となっている。心の中が描き出されている珍らしい一句。


第305回:胡麻の花・風の盆・秋意

お茶の水俳句会から秀句をご紹介します。
 
第305回 2010年9月13日(月) 於:文京区民センター
兼題:胡麻の花・風の盆・秋意、 席題:赤とんぼ・おしろいの花
 

おしろいが咲き裏町の灯り初む   高木 良多

てのひらを月に返して風の盆    蟇目 良雨

終バスの遠退く尾燈虫の闇     荻原 芳堂

虚無僧の尺八湿る秋意かな     鈴木大林子

吹き晴れし沼のほとりや赤蜻蛉   乾 佐知子

風の盆果て水音の戻りけり     花里 洋子

痛み止めゆるやかに効き秋意かな  井上 芳子

胡麻の花乾き切つたる大地かな   長沼 史子

茶柱のゆるがぬ今朝の秋意かな   石川 英子

帯決めて連を繰り出す風の盆    元石 一雄

東大寺まで奈良坂を油照      積田 太郎